5月22日に開催されたHR TECH カンファレンス2020にて、弊社代表の長谷川がピープルマネジメントについて講演させていただきました。
講演中に、チャット欄にて多くのご質問を頂戴しましたが、時間内にすべて回答できなかったため、今回は「ピープルマネジメントについて、よくある質問」というテーマで、記事としてまとめさせていただければと思います。
本講演の資料はこちら:組織課題の本質は「マネジメント」にある!? 「ピープルマネージャー」育成のために、人事ができること
講演中にいただいたご質問に加えて、普段よくいただく質問についてもまとめていますので、ぜひご覧くださいませ。
※質問文は、一部を読みやすく編集させていただいております。
Q1:ピープルマネジメントという言葉自体は、どこが定義しているのでしょうか?
「ピープルマネジメント」という言葉自体は、もともと英語圏において「人に関するマネジメント」として普遍的に使われている言葉です。
例えばIndeed社のコラムでは下記のように記載されています。
People management is the process of training, motivating and directing employees in order to optimize workplace productivity and promote professional growth.
また、世界を代表するコンサルティングファームのひとつであるデロイトが2018年に発表した「2018 HR Technology Disruptions」によると、
・HRテクノロジー市場の変化により、タレントマネジメントは、ピープルマネジメントへと発展している
・ピープルマネジメントでは、企業文化、エンゲージメント、職場環境、リーダーシップ、権限委譲、調和に重点を置く
・約180億ドル規模の「ピープルマネジメント市場」がすでに確立している
とあります。弊社ではこうしたピープルマネジメントに関する資料をわかりやすく日本語訳し、「ピープルマネジメントとは、メンバーの成功にコミットするマネジメントである」とお伝えしています。
参考:ピープルマネジメントとは何か?「メンバーの成功」にコミットし、組織を成長させる方法
Q2:管理職層自身が、ピープルマネジメントを適切にされた原体験を持たぬ人が多く、実践品質が低いです。さらに原体験が乏しい経営や幹部から、管理職層に向けたピープルマネジメントを高めるには、どのような工夫ができますでしょうか?
Q3:全てのリーダーにピープルマネジメントの必要性を感じてもらい、スキルを身に付けてもらうにはどうしたらよいでしょうか?
経営層、管理職を含めた全てのリーダーにピープルマネジメントの必要性を感じてもらうには、具体的な事例を共有し、世界的なピープルマネジメントのトレンドを示すのがオススメです。
下記の記事に事例を掲載しておりますので、参考にしてみてください。
ピープルマネジメントの導入事例 〜1on1編〜(グリー、Genosy、デルなど国内5社の事例)ピープルマネジメント導入事例 〜目標・フィードバック編〜(Microsoft、GE、Adobeの事例)
また、「なぜマネジメントを変えるべきなのか」という問いに対しては、「従業員の離職の50%はマネージャー(マネジメント)に原因がある」という調査結果が出ています。こうしたファクトを提示することも必要かと思います。詳細は下記の記事でご覧ください。
「マネジメント・ショック」到来。いま、マネジメントはどう変わるべきなのか?
Q4:エンゲージメントの向上は大事と頭では理解しながら、効果が出るまでに時間がかかると思います。取り組み始めてから業績アップまでどの程度時間が必要なのでしょうか? ケースバイケースとは思いながら、何か事例があれば教えて頂きたいです。
エンゲージメントが業績に与えるインパクトとしては、離職率の低下、従業員の生産性向上、採用費の減少などが考えられます。
しかしご指摘の通り、エンゲージメントの向上から業績アップまでにかかる時間は、組織の規模、事業内容、カルチャー等によって大きく異なります。
組織を構成する要素の中で、システムや制度といった「ハード」は比較的変更が容易であるのに対し、ピープルマネジメントやエンゲージメントといった「ソフト」は変更に時間がかかるとされています。
その中で、なるべく早く成果をあげるためには、目標設定→フィードバック(評価)のサイクルを高頻度にすることが必要です。このサイクルが長いスパン(1年に一度など)で設定されていると、それだけ成果が出るのも遅くなります。
例えばAdobe社では、継続的な面談を通じて上司と部下のリレーションシップを構築する新しい評価制度を導入し、5年で離職率の大幅ダウン、株価3倍、「アドビを働きがいのある会社として勧められる」と回答した社員が10%増加、といった成果をあげています。
詳細:ランク付けをやめ、納得感のある人事制度を実現。アドビ「チェックイン」運用の実態
他にも、世界的ホテルチェーンのHilton Hotelでは、2018年に「従業員へのホスピタリティの徹底」を新たな方針として打ち出し、従業員エンゲージメントの向上を図りました。これらの施策の効果もあり、翌年2019年にFORTUNEが発表した100 Best Companies to Work Forでは、堂々の全体1位に輝いています。
参考:Hilton Hotels’ newest upgrades are strictly for staff
Q5:マネジメント担当者の評価は、ピープルマネジメントの結果が反映される仕組みが望ましいのでしょうか。
各社の組織文化や事業内容に応じて、最適な評価の仕組みは異なります。しかし、マネジメントの貢献を全く評価に含まないことは、マネージャーのモチベーションやエンゲージメントの大きな低下につながります。
一例ですが、弊社の場合は「バリュー(行動指針)に対する評価」+「アウトプット(成果)に対する評価」の二軸で評価を実施しています。そして、ピープルマネジメントの結果は「バリュー評価」の部分で加味するケースがほとんどです。
例えば、とあるピープルマネージャーがメンバーの育成に大きく貢献した場合、「世界に誇れる仕事を」というバリュー項目で評価をしています。他にも、マネジメントスキルが大きく向上した場合であれば、「進化に勝る超進化」という項目で評価します。
このように、直接的に「ピープルマネジメント」を評価する項目は設けていませんが、実際の活動や成果は評価に反映される形になっています。
Q6:PeopleManager向けの研修などは行われていらっしゃいますか?
Wistantの導入企業様向けに実施しておりますが、過去には研修のみをご提供した事例もございます。ぜひお問い合わせください。
Q7:弊社でも1on1を実施しているのですが、業務の話ばかりになってしまうのが課題です。どうすれば良いでしょうか。
「1on1が業務の話ばかりになってしまう」という課題はよく聞きます。最初は、あえて「今日の1on1ではキャリアの話をしよう」「いつもは話せない◯◯について話そう」と強制的にテーマを決めてしまうことがオススメです。
また、1on1の時に必ず「良かったことの振り返り」と、「それに対する承認と賞賛」を行う習慣をつけると、少しずつ「1on1のスタンス」がメンターにもメンティにも定着していきます。
良い1on1には、下記のようなポイントがありますので、ぜひ実践の参考にしてみてください。
①スタート時に、その場の「ゴール」を確認する
②メンターは、メンティが考えを整理することを手伝う
③「学びの確認」を行う
④最後に、次の行動を決める
詳しくは、こちらの記事をご覧ください:1on1とは? 目的と効果、導入事例(5社)を紹介
Q8:1on1で何を話したらよいのか戸惑うマネージャーが多く、そのための研修の必要性を痛感しています。どのような研修が効果がありますか
1on1の研修としてオススメなのが、組織内のメンバーで実践できる「シャドーコーチング」です。
シャドーコーチングでは、5人一組で1on1を行います。メンター役(1名)・メンティ役(1名)・そのサポーター役(各1名)・全体を観察するオブザーバー(1名)です。
役割を替えながら1on1を行い、毎回、互いの気づきを共有し、フィードバックを行います。
役名 |
役割 |
コーチ(上司役) |
コーチングに気を使いながら、クライアントに質問したり気づきを引き出します |
クライアント(部下役) |
コーチとコミュニケーションを取って、質問に答えたり、自分の考えを伝えましょう |
シャドーコーチ |
コーチ役になったつもりで、クライアントの様子を観察します。 |
シャドークライアント |
クライアント役になったつもりで、会話に沿いながら、コーチの姿勢や表情、手振りなどを見ます。終了後にコーチ役にフィードバックを行います。 |
オブザーバー |
全体的な会話に耳を傾け、コーチ役にフィードバックを行います。 |
この体験を通じて、メンターごとの1on1における課題をあぶりだし、次アクションまでを決めるようにしましょう。
また、弊社作成の「1on1パーフェクトガイドブック」もぜひ参考にしてみてください。
Q9:1on1が効果的に運用されているかを評価したいのですが、どのような方法を推奨されますか?
1on1の効果測定に関して、まず重要なのは「実施率」です。ついつい業務に追われておろそかになってしまいがちですので、設定されたペアでしっかり1on1が行われているかを確認しましょう。最初は70〜80%の実施率を目指すと良いと思います。
参考記事:【1on1のリアル】先月の1on1実施率は「96%」、最もよく話されたトピックは「◯◯」でした
1on1が定着してきたら、次に、メンティ側に「1on1の充実度」アンケートをとってみることをオススメします。
充実度とは、1on1がメンティの成長につながっているかを問うものです。メンターごと、部署ごとに1on1の充実度を分析していくと、1on1がうまく機能していないペアがわかりますので、個別にヒアリングを行いましょう。
また、少し難易度は上がりますが、1on1で「よく話されているトピック」を分析することもオススメです。
1on1で話された内容はあくまでもメンター・メンティ間にとどめておくべきですが、大まかなトピックを分析することで、現状の組織課題が浮き彫りになります。課題に応じて、それを解決する施策を行っていきましょう。
Q10:前提として上司への信頼感がない場合に、1on1は形骸化しがちだと思いました。1on1導入の前提条件がありますでしょうか?
そもそも1on1の導入メリットとして、マネージャー・メンバー間の関係性が向上し、コミュニケーションが円滑になる、ということが挙げられます。
すると結果的にチームワークが高まり、携わっているプロダクトやサービスがより良いものになり、業績が上がる…という好循環を生み出すことができます。
ですので「前提条件がある」というより、「1on1を通じて関係性の構築を図ることが、組織改善のために重要である」と言えます。
前述した1on1の「充実度」のデータを用いて、1on1が形骸化しているペアをあぶりだし、人事や経営から個別にヒアリングすることも効果的です。
Q11:部下が何十人もいる場合は、どのように1on1を回してくのがいいですか?
1on1の頻度や時間の長さ、プレイングマネージャーか否かにもよりますが、1人のマネージャーが担当できるメンティの数は5〜10人が限界です。物理的にはもっと可能ですが、どうしても対話の質が下がってしまうと考えられます。
そのような場合は、組織を階層に分けることがオススメです。5~10人のチームに分け、それぞれのリーダーが1on1を実施し、ご自身はリーダーの方と1on1を行う…といった形です。
加えて、1ヶ月〜四半期に一度ほどは、メンバーと直接1on1をする機会も設けられれば理想的です。
Q12:シフト勤務制の組織はなかなか1on1の実施ができないのですが、そのような会社で工夫していることがあれば知りたい。
Wistantの導入企業様でも、シフト勤務制をとられている企業様がいらっしゃいます。そうした場合、「シフトが全く違う部下のマネジメントをしなければならない」という問題が発生します。
こうした企業で1on1を導入する場合は、まずできる範囲から始めるスモールスタートがオススメです。一部メンバーから試験的にスタートし、同時進行で「メンターができる部下」を増やしていきます。すると、メンターができるようになった部下が、同じシフトの人と1on1をしていく形を作っていくことができます。
ですが、最低でも月に1回・30分ほどは、直属の上司部下で向き合う時間を確保することをオススメします。それさえも確保が難しい、という状態は「ほぼマネジメントが機能していない」と言えますので、どうにかして時間を捻出するようにしたいですね。
Q13:個人で目標設定をすると、本人の思いが強く出ることで、トップダウンの場合と比較して組織としてバラバラになってしまう。
このようなケースでは、組織の目標と従業員の目標を結びつけるフレームワーク「OKR」の思想を導入することがオススメです。
OKRとは、「Objectives and Key Results」の略語です。直訳するのであれば、「目標と、そのカギとなる成果指標の集まり」となります。
具体的にはまず目標(Objectives)を決め、その達成のために必要な要素を3〜4の成果指標(Key Results)に分解し、進捗をトラッキングします。
実際に企業がOKRを運用する場合には、まず、会社としての「O」と「KR」をそれぞれ設定します。そして会社のKRがチームのOとなり、チームのKRが個人のOになる…という形で、ピラミッド構造の目標が出来上がります。
このように「会社の目標と個人の目標がリンクする」ということが、OKRの最大の特徴です。
OKRについては、弊社作成の「OKRパーフェクトガイド」も参考にしてみてください。
Q14:OKRの目標設定について、慣れていない組織も多いと思いますが、ツール上で支援やレコメンドする機能はあるのでしょうか?
Wistantでは、OKRの形式での目標管理が可能です。また、OやKRを紐付けする機能を近日実装予定です(※2020年6月時点)。
具体的な目標のレコメンドに関しては実装予定がございませんが、ご希望に応じて目標設定のワークショップなどを提供しております。ぜひお問い合わせください。
Q15:フィードバックの際に建設的なコメントをするには、どのように指導をしていったらいいのか悩ましいです。改善点を述べてもらうとつい、相手に対してあら探し、攻撃的になってしまう傾向があります。
フィードバックに近しい概念として、「フィードフォワード」という考え方があります。フィードバックは過去の行動や言動にフォーカスしますが、フィードフォワードはより未来志向である点が特徴です。
フィードフォワードでは、
という順序でコミュニケーションを行うため、建設的な意見を伝えやすいです。例えば、下記のフィードバックは攻撃的で、具体性に欠け、あまり建設的とは言えないかと思います。
上記に、フィードフォワードの要素を取り入れると下記のようになります。
非常に前向きで、「これから何をすればよいか」わかりやすくなったのではないでしょうか。
詳しくはこちらの記事もご覧ください。:
【実例アリ】新入社員を凡庸にするアドバイス vs 尖ったエースに変えるフィードバック
Q16:フィードバックを高頻度で実施するオペレーションが負担です。実施している間に、次のサイクルが始まってしまいます…。
例えば「360度フィードバックの回数や人数を増やしたことで、現場の負担が増えてしまった…」といった話はよく聞きます。
継続的なフィードバックを運用する上では、オペレーション上の負担を減らすことは非常に重要になります。例えば弊社の場合は、360度フィードバックを毎月運用していますが、内容は非常にシンプルで、設問は下記の2つのみになっています。
Start(新しくはじめてほしいこと)
また、月に担当する人数も1名としています。回答する側(現場)、運用する側(人事)双方にとって負担が少ないシンプルなフィードバックが理想的です。
Q17:Wistantの中で、通常の人事評価も実施できるのでしょうか。
実施できます。Wistantではフィードバックのテンプレートを自由に作成することができるので、評価項目を記載した評価シートを作成いただき、お使いいただく形になります。
定量評価、定性評価、レーティングやフリーコメントなど、テンプレートは自由に作成が可能です。
Q18:全社員が在宅勤務を行う中で、対話を意図的に増やしているとの事ですが、どのような取り組みをしているか具体的に教えてください。
弊社で行っている取り組みには、下記のようなものがございます。
・1on1の頻度アップ(隔週→週次に)を推奨
・日報の詳細化によるアウトプットの可視化
・全社会議(オンライン)を隔週→週次に。少人数での雑談セッションを毎回導入。
・コミュニケーションツールの追加導入( Tandem 等)
詳しくは、弊社のブログにてまとめておりますので、ぜひご覧くださいませ。
いかがでしたでしょうか。よく聞かれる質問に関しては、他にも多くありますので、別記事にしてまたまとめさせていただきます。
この度の弊社講演にご参加いただいた皆さま、改めてありがとうございました。弊社では、マネジメントに関する無料の個別相談会も実施しております。ご興味をお持ちの方は、ぜひお気軽にお申し込みくださいませ。