ピープルマネジメントとは何か?「メンバーの成功」にコミットし、組織を成長させる方法

ピープルマネジメントとは何か?「メンバーの成功」にコミットし、組織を成長させる方法

「ピープルマネジメント」とは、メンバーの成功にコミットするマネジメントです。

これまでのマネジメントは、「メンバー(人)」ではなく「その人が持っている案件や数値」が管理の中心でした。

しかし時代の変化に伴い、メンバーのパフォーマンス向上はもちろん、モチベーションやキャリア、働き方までを含めた「成功」にコミットするマネジメントが、より求められるようになってきています。

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今回は、ピープルマネジメントの定義や従来のマネジメントとの違い、その実践法や求められるスキルについて、徹底解説します。

 

これまでのマネジメントと「ピープルマネジメント」の違い

 

ピープルマネジメントと、これまでのマネジメントの違いはなんでしょうか? 

両者の目的はともに、「マネジメントによって、組織の成果を最大化すること」です。つまりゴールは同じですが、そのための方法や考え方が大きく異なります。

▼これまでのマネジメント

・「ヒト・モノ・カネ・情報」といった経営資源を適切に管理することで、組織の成果を最大化することを目指す。

・ビジネス上の目標達成のために、いかに「成果」を上げるかということを重視する。パフォーマンス偏重型のマネジメント。

・マネージャーの役割は管理、監督、評価、賞罰が中心。最終的には、組織の成果に責任を負う。

▼ピープルマネジメント

・メンバー(ヒト)に向き合い、1人ひとりの成功にコミットすることで、組織の成果を最大化することを目指す。

・1人ひとりのエンゲージメント(※組織に対する愛着の度合い)やモチベーションが、高い状態にあるようにサポートする。

・マネージャーの役割はメンバーと向き合い、伴走し、1人ひとりが持つ可能性を引き出すこと。

では、実際にピープルマネジメントを実践すると、マネジメントにどのような変化が起こるのでしょうか?

①「メンバーに向き合う頻度」が上がる

多くの企業では、1人ひとりの成長に向き合う機会は年に数回、もしくは1回の「評価面談」に限られています。もちろんそれ以外にも対話の機会はありますが、内容は案件のレビューや、目標に対する進捗が中心です。

一方でピープルマネジメントにおいては、メンバー1人ひとりの成功を導くことが重要になるので、評価面談だけでは不十分です。

近年、多くの企業で「1on1(※)」が導入されるようになりましたが、1on1はメンバーの成長やパフォーマンスに向き合う代表的な機会と言えます。

※個人のパフォーマンス向上を目的とし、メンター(多くの場合は上司・マネージャー)とメンティ(部下・メンバー)が1対1で対話をする場のこと。詳しくはこちら

ピープルマネジメント頻度

②「良いマネージャー」の人物像が変化する

これまでのマネジメントにおける「良いマネージャー」とは、チームのパフォーマンス(成果)を上げることのできる人物でした。代表的なイメージは、トップダウンのマネジメントができ、仕事を管理実行する怖いボス。

一方ピープルマネジメントにおいては、人の成長やモチベーションを引き出す、優れたコーチが良いマネージャーです。上意下達ではなく伴走型のマネジメントを行い、パフォーマンスだけではなくエンゲージメントの向上にもフォーカスします。

 

③メンバー1人ひとりの自律性が高まる

ピープルマネジメントにおいては、従来のような「指示・命令」中心の管理型マネジメントは行われません。代わりに、マネージャーは1人ひとりの強みや可能性を引き出し、伴走します。

これによって変化するのは、マネージャーの行動だけではありません。メンバーも、自分自身の成功とは何か、自己に向き合って考えた上で、行動する必要が出てきます。

そのためには、自己内省やふりかえりのスキルを高め、フィードバックをもらいながら自分自身の成長に対して能動的に動くことになります。いわゆる「指示待ち」のスタンスでいるメンバーとそうでないメンバーでは、大きな差が生まれるでしょう。

 

 

ピープルマネジメントが重要視される時代背景

 

近年、ピープルマネジメントが注目される背景にあるのは、企業を取り巻く環境の変化です。具体的には

・「VUCAワールド」と呼ばれる、市場環境の変化が激しい時代
・人材や考え方の多様化
・テクノロジーやインターネットの発展

・グローバリゼーション
・生産性や効率に対する意識の向上(日本でいう「働き方改革」) etc….

といったことが挙げられます。

こうした変化により、企業で働く従業員には下記のような悩みが出てきました。

・今の会社で、世の中に通用するキャリアを描けるか…?
・若いうちにスキルを身につけたい…
・自分の仕事は、会社や世の中の役に立っているのか…
・自分は正しい評価をされているのだろうか…
・自分の会社は、他の会社に比べて遅れているのではないか…

また、日本においては特に、「生産労働人口の減少」が大きな問題となっています。具体的には、2030年までに労働力人口がおよそ815万人(12.8%)減少し、最大で約1,512万人の労働供給が不足すると言われています。(※参考:パーソル研究所「労働市場の未来推計 2030」)

労働力人口の不足

企業にとって「人」は、今後より一層稀少な経営資源となるのです。

結果的に、企業はこれまで以上に「優秀な人材をひきつける魅力ある組織づくり」に注力し、メンバーと向き合う必要が出てきました。

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実際に、所属する企業に対する愛着を表す「エンゲージメント」が、メンバーのパフォーマンスに大きな影響を与えることがわかっています。

 

ハーバード・ビジネス・レビューの調査結果によると、エンゲージメントに影響を与える要素のほとんどが、マネジメントによってコントロールができるものになっています。

 

また、アメリカの調査会社Gallup社によると

・目標設定のサポートをしないマネージャーのチームでは、92%のメンバーのエンゲージメントが高くない

・強みにフォーカスしないマネージャーのチームでは、98%のメンバーのエンゲージメントが高くない

・エンゲージメント上位25%の会社は、下位25%の会社より顧客満足度、生産性、売上、利益が低い。

という結果が出ています。

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(※詳細:「マネジメント・ショック」到来。いま、マネジメントはどう変わるべきか?

では、どのような方法でピープルマネジメントを導入すればよいのでしょうか?

 

ピープルマネジメントの実践ステップ

 

ピープルマネジメントの実現は、下記のようなステップに分解されます。

Step1:マネジメントの「量」の改善

実際、いきなり全マネージャーに「メンバーを成功に導くためのスキルを身に着けて欲しい」といったことを求めても、それはなかなか難しいですよね。そこで最初に行いたいのが、マネジメントの「量」の改善です。

先ほど説明したとおり、ピープルマネジメントと通常のマネジメントのオペレーションでは、「メンバーの成功」と向き合う機会の分量が圧倒的に異なります。

そこで最初は、1on1を導入する、フィードバックの機会を増やす、といった施策によって、マネジメントの「量」の改善を行いましょう。

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1on1は、多くの企業で導入が進んでいます。実際の事例や導入ステップに関しては、こちらの記事が参考になります。

他にも、対話の機会を増やす方法はあります。例えばAdobe社では、「チェックイン」という制度を設け、かつては年に1回だった目標に関する対話を、最低でも3ヶ月に1回は実施するようにしました(Adobe社の事例については、後ほど詳しく説明します)。

「メンバーの成功に向き合う機会をどう増やすか?」は会社によって様々です。自社にあった方法で進めていくのが良いでしょう。

Step2:マネジメントの「質」の改善

メンバーの成功に向き合う機会を増やすことができたら、次は向き合い方の「質」を高めていきましょう。

具体的には、目標やフィードバック、そして1on1といったマネジメントに関するイベントの質を、ひとつひとつ高めていくことになります。

以下に、それぞれの質を高めるための簡単なコツを記載します。


①「目標」の質を高める方法

目標は上から落とすのではなく、メンバーが達成したいと思えるような目標を、なるべく主体性を持って自己決定してもらうことが重要です。そのためにはまずは1人ひとりが自分の目標を考えた上で、マネージャーとすり合わせを行うのが良いでしょう。

目標自体の質を高めるには、様々なフレームワークがあります。例えば「SMART」は、以下の頭文字をとった目標設定のメソッドです。

S:Specific(具体的で)
M:Measurable(計測可能で)

A:Achievable(実現可能で)
R:Relevant(必要性があり)
T:Time bound(時間的な制約がかけられている)

具体的な目標設定のコツに関しては、こちらの記事をご覧ください。SMARTだけではなく、「OKR」「HARDゴール」等の目標フレームワークや、Googleの事例を紹介しています。


②「フィードバック」の質を高める方法

フィードバックとは、「成長をサポートしたい相手に対し、その人のパフォーマンスの良し悪しを伝え、成長に繋げること」です。質の高いフィードバックを送るためには、下記の3点が重要になります。

✔ 心理的安全性を確保する
✔ 具体的に伝える
✔ リアルタイムに伝える

また、「SBI」といったフレームワークを用いることで、よりその質を高めることができます。SBIは、「Situation(客観的な状況)」「Behaviour(客観的なその人の行為)」「Impact(他社にどんな影響を与えたのか)」の3点で構成されます。例えば…

Situation
-「◯◯の営業先の準備をチームで行っている時に」
Behaviour
-「営業先の資料を率先して収集してまとめてくれたよね」
Impact
-「そうすることで、準備自体も円滑に進んだし、他のメンバーに刺激を与えていたよ。実際、いつも動いてくれない△△さんが自ら行動してくれた」

このように、ただ漠然と「良かった」「悪かった」を伝えるのではなく、上記のように具体的で客観的な事実情報を用いて、フィードバックを行いましょう。もっと詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。


③「1on1」の質を高める方法

1on1とは、メンター(多くの場合は上司・マネージャー)とメンティ(部下・メンバー)が1対1で対話をする場のことです。

その目的は、個人のパフォーマンス向上です。マネージャーが部下に対し一方的にレビューをするのではなく、あくまでもメンバー個人のパフォーマンスを引き上げるための場となります。

1on1がただの「レビューの場」にならないようにするためには、下記のようなスタンスでのぞむと良いとされています。

・1on1はメンティのための時間。主役であるメンティが話したいことをテーマにする。
・メンターは、メンティの行動と学習を促進し、成長スピードややる気を高める。

・1on1はメンティとメンターの協働作業。一緒に考え、伴走する。

そしたメンターは、「コーチング」「ティーチング」「フィードバック」を使い分けながら、メンティーと対話を行います。

  コーチング ティーチング フィードバック

メンターの
アクション

引き出す 教える 伝える
メンティーの
ゴール
気づきを得て、
次アクションを決める

知識を得て、
業務に活かす

自分の現状を知り、
改善する。
メンターに
必要なスキル
質問力 指導力 伝達力
基本的なスキル 傾聴力、観察力、承認力


詳しくは、こちらの記事をご参考ください。

 

ピープルマネジメントの実践事例

  • 最後に、実際にピープルマネジメントを実践している企業【3社】の事例をご紹介します。

SAP:上司と部下の「対話」で89%の従業員パフォーマンスが向上

SAPは、ビジネスソフトウェアの開発・販売を手がける、ドイツ出身の多国籍企業です。

同社は世界中に多くの顧客を抱えており、Forbesが毎年発表するForbes Global 2000(世界の有力企業2,000社のランキング)のうち87%の企業が、SAPユーザーであることがわかっています。
(※参考記事:「世界の有力企業2000社」リスト、米中がトップ10を半数ずつ独占

SAPは、2008年のリーマンショック後に成長が著しく低下し、再起を図る必要がありました。そこで、事業のグローバル化を進めると同時に、ピープルマネジメントの実施により従業員のパフォーマンスを上げ、回復を遂げた企業として学ぶべき点が多いです。

SAPのピープルマネジメント施策として、具体例を2つご紹介します。

①SAP Talk

SAP Talkは、上司と部下が定期的にコミュニケーションをとる場です。
(※参考記事:SAP Talk

ピープルマネジメントの記事.005

SAP Talkでは上司が部下に向き合い、必要とされているサポートや、職場環境について話し合うことができます。また同時に、キャリアについての対話も頻繁に行われるなど、従業員1人ひとりに寄り添う姿勢が貫かれています。

結果として、従業員の89%が「SAP Talkによりパフォーマンスが上がった」と回答しています。
(※参考記事:How To Create A Culture Of Connection Within Your Organization

ピープルマネジメントの記事.006

②SAP academy

同社ではSAP academyと呼ばれる大規模な若手育成プログラムを提供しています。
(※参考記事:SAP Academy

ピープルマネジメントの記事.008

SAP academyでは、世界50カ国から1,000人以上の選ばれた若手社員に対し、アメリカにて9ヶ月間の徹底的なトレーニングが施されます。

SAP academyの出身者は、その他すべての年次の社員と比較した際、目標の達成率が高いことが明らかになっています。
(※参考記事:創業45年の老舗企業が挑戦するイノベーションの定着化

大企業だからこそ、SAP academyのような大規模な施策を打ち出せることは事実ではありますが、注目すべき点は、SAPがピープルマネジメントに投資をせざるを得ない理由にあります。

SAPがピープルマネジメントに力を入れる理由は、2020年までに全営業担当者の20%が定年を迎えるためです。それ故、現在のマネージャー層に代わる人材として、若い世代のパフォーマンスを向上させることが急務となっています。

これは、SAPだけではなく、多くの日本企業においても当てはまる事例ですね。

以前のように長い時間をかけて若手を成長させるやり方では、労働人口の偏りに対応することができません。そこで、数値や成果だけを管理する旧型のマネジメント手法から脱却する企業が増えているのです。

Adobe:評価制度の軸を「継続的な対話」に移行

Adobe Systemsはアメリカに本社を構える、コンピューターソフトウェアの会社です。PDFの閲覧・編集をする際に、一度は見たことがあるのではないでしょうか? 他にも、クリエーターには必須のPhotoshopなどのソフトウェアを提供しています。

Adobe Systemsでは、ピープルマネジメントの一環として、人事評価の根本的な刷新を行いました。

人事評価を変更した背景として、「人事評価に納得できない」「有益なフィードバックが得られない」と言った不満の声が多く寄せられていたことが挙げられます。
(※参考記事:ランク付けをやめ、納得感のある人事制度を実現。アドビ「チェックイン」運用の実態

そこで同社では、毎年一度の人事評価を、「チェックイン」と呼ばれる継続的な対話ベースの人事評価制度へ変更しました。

チェックインの最大の特徴は、上司と部下の継続的な対話が、人事評価のベースになっている点です。

ピープルマネジメントの記事.011

(※参考記事:The story of Check-in.

チェックインを導入した結果、従業員は「マネージャーに自分の働きをしっかりとみてもらえている」「困った際には、サポートしてもらえる」といった感想を持ったそうです。

また、継続的な対話をベースにした人事評価を行うため、評価への納得感も向上し、離職率も低下しました。実際、アンケートの結果、以下のような数値の向上がありました。

・「アドビを働きがいのある会社として勧められる」と回答した社員が10%増加
・「上司からのフィードバックが役立つものである」と回答した社員が10%増加

※チェックインに関する記事はこちら

Adobe Systemsでは、従業員からの不満を発端として人事評価の刷新が行われましたが、多くの日本企業でも人事評価制度の見直しは必要だと言えます。

2018年に1,000人を対象にした調査によると、納得できない人事評価が下された場合には、28%の人が転職を考えると回答しています。(※参考記事:Yoh Survey

LinkedIn:全社的な目標管理で従業員のパフォーマンスを向上

LinkedInは世界中に6.6億人のユーザーを持つ、ビジネス特化型のSNSです。企業と個人を直接繋ぎ、採用に結びつけることができます。

同社は従業員の目標管理・達成に向けたサポートを徹底することで、1人ひとりのパフォーマンスを最大化し、20億ドル規模の企業にまで成長することができました。

具体的には、以下の特徴を備えた目標管理を行っています。

①人事評価と目標管理の分離

LinkedInでは、人事評価と目標の達成度合いを完全に分離しています。そうすることで、従来の「人事評価と紐づいた目標設定」によって発生する下記のような弊害を防ぐことができます。

・評価を下げないために、意図的に達成しやすい目標を設定する
・評価を気にしすぎるがあまり、挑戦することを恐れてしまう

対照的にLinkedInでは、人事評価を気にすることなく、従業員が積極的に挑戦することができ、企業としてのさらなる成長を期待することができます。(※参考記事:Achieving Success With OKRs

②全従業員の目標の進捗度合いを可視化

同社では「OKR(※)」というフレームワークを用いてチームと個人の目標設定を行っています.

※「Objectives and Key Results」の略語で、目標管理のフレームワーク。詳しくはこちら

そして、それぞれのチーム・個人目標の進捗度合いが全てオープンに共有されています。すると、サポートを必要としているメンバーを特定できるというメリットがあります。

また同時に、企業が抱える課題を見つけ、それを改善するための手がかりを得ることができます。(※参考記事:Top 15 benefits of using OKRs

③目標達成に向けた徹底的なサポート

目標の進捗に遅れを取っているメンバーには、何らかのサポートが必要です。同社では、毎週マネージャー陣がミーティングを行い、メンバー1人ひとりの目標進捗を確認しています。

ピープルマネジメントの記事.014

それらを確認した上で今後の計画を立てることができるので、現場と経営層の乖離が起こりません。(※参考記事:The Management Framework that…

実際、Harvard Business Review Pressによって出版されたThe Balanced Scorecardによると、メンバーの目標に対する進捗度合いを無視してしまうことにより、90%以上の企業が戦略の実行に失敗していることが明らかになっています。(※参考記事:90 Percent of Companies Fail to do This

皆さまも上記の事例を参考に、ピープルマネジメントを実践し、よりエンゲージメントの高い組織を作っていきましょう。

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