ランク付けしない評価制度「ノーレイティング」とは?【事例3選】を用いてメリデメや導入時のポイントを解説!
ピープルマネジメント フィードバック・評価
2020. 02. 12

ランク付けしない評価制度「ノーレイティング」とは?【事例3選】を用いてメリデメや導入時のポイントを解説!

「ノーレイティング」という新しい人事評価の方法をご存知でしょうか? 近年注目を集めており、GoogleやAmazonをはじめとした大企業も、年次ごとの評価から「ノーレイティング」へと変更しています。

しかし、トレンドとなりつつある「ノーレイティング」も良い点ばかりではなく、運用する際に気をつけるべき点が多いことも事実です。

今回の記事では、「ノーレイティング」のメリットから課題点、導入の際に気をつけるポイントまで、先端企業事例を交えながら徹底的に解説していきます。

目次
1:ノーレイティングとは?
2:ノーレイティングが誕生した背景
3:ノーレイティングのメリット
4:ノーレイティングが直面する課題
5:先端企業3選
6:まとめ

 

1:ノーレイティングとは?

簡潔に言うならば、「日常のフィードバックの延長線上に位置する人事評価」と言うことができます上司から部下への一年に一度のフィードバックを人事評価とするのではなく、日常的にフィードバックを送り、その延長線上に最終的な人事評価を位置付けます。

ノーレイティング記事.001

ノーレイティング(No Rating)と言う名前から、「従業員をA.B.C.Dとランク付けを行わない人事評価」と説明されることも多いですが、「ランク付けを行わないこと」は単なる特徴であり、本質ではないため注意が必要です。
(※参考記事:The Real Impact on Employees of Removing Performance Ratings

詳しくは、「②ノーレイティングが誕生した背景」で説明致します。

 

2:ノーレティングが誕生した背景

多くの外資系企業でノーレイティングが採用されている最大の理由は、一年に一度の人事評価では、従業員のパフォーマンスを向上させることが難しいためです。

多くの日本企業では、期初に設定した目標への達成度を基準として、一年に一度の評価面談を通して評価を行なっています。しかしながら、変化のスピードが以前に増して早い現代において、一年に一度の目標設定では、一年の間に目標が古びてしまう事態が多く発生しています。

実際、ガートナー(リサーチ会社)が行なった調査によると、95%の従業員が年次ベースの評価手法に対して不満を抱いていることがわかっています。
(※参考資料:Is It Time to Put the Performance Review on a PIP?

ノーレイティング記事.003

このような年次評価の機能不全を背景として、人事評価を日常のフィードバックの延長線上に位置付ける動きが盛んになりました。

日常的に上司が部下に対してフィードバックを与えることにより、上司は部下の働きぶりをリアルタイムで確認できます。また、部下も高頻度で上司からフィードバックを得られるため、業務への取り組みを改善することができます。

この「繰り返し行われるフィードバック」の延長線上に人事評価を位置付けることで、上司は部下1人ひとりにより質の高い評価を行うことができると同時に、評価への納得度を上げることができます。

このような継続的なフィードバックをベースとした人事評価のもとでは、従業員にランクを付けることは意味をなしません。ランク付けは、一律の基準に照らし合わせて従業員を評価することを意味するため、変化の激しい日常の業務との繋がりが薄くなってしまいます。それ故、一律に従業員を評価するランク付けの制度を廃止すると言う意味で、「ノーレイティング」と呼ばれています。

 

3:ノーレイティングのメリット

ノーレイティングによる人事評価には、旧来の年次評価は持ち合わせていない、いくつかのメリットがあります。

①部下とのコミュニケーションを増やすことができる

ランク付けを行うために費やしていた時間を、部下とのコミュニケーションに充てることができます。フィードバックをより頻繁に送ることができるため、部下のパフォーマンスの向上を期待することができます。

実際に、マッキンゼー・アンド・カンパニーが2012年に行なった調査によると、コミュニケーションにより従業員のことをよく理解している会社は、25%生産性が高いことが明らかになっています。

コミュニケーション_生産性.011

(※参考記事:The social economy: Unlocking value and productivity through social technologies

②1人ひとりに合う評価を行える

ランク付けを取り払うことにより、成果だけではなく、従業員1人ひとりに合う柔軟な評価を行うことができます。

例えば、高額受注が偶然に舞い込んできたり、商談の最後の最後で受注できなかったり、突然の市場の変化により成績を出すことが困難になる…といった場合があります。このように、本人の努力だけでコントロールできない場合には、本人の努力やプロセスを評価することで評価への納得度を高めることができます。
(※参考記事:ドラッカーが考えたMBO(目標管理制度)による人事評価・マネジメントが日本で機能しない理由

③従業員のエンゲージメントを高めることができる

1人ひとりに柔軟に評価を下すことで、納得度をあげることができるため、従業員がモチベーション高く仕事にのぞむことができます。実際、2016年にLinkedIinが行った調査によると、69%の従業員は「仕事の努力が正当に評価された場合には、より仕事に熱心に取り組む」と回答しています。
(※参考資料:5 Employee Feedback Stats That You Need to See

 

4:ノーレイティングが直面する課題

ノーレイティングにはいくつかのメリットがある一方で、様々な困難が原因で機能しない場合が多いことも事実です。実際、効果的に運用できなかった場合、従業員のパフォーマンスが10%ほど低下する傾向があることがわかっています。
(※参考記事:The Real Impact on Employees of Removing Performance Ratings

ノーレイティングか直面している課題点をいくつかご紹介します。

①上司が適切にフィードバックを送ることができない

ノーレイティングは、継続的なフィードバックの延長線上に人事評価を位置付けるため、上司が適切なフィードバックを送れることが前提条件となっています。しかしながら、実際にはフィードバックを送るはずが、単なる説教になってしまうケースも多いです。
(※参考記事:「エセ・フィードバック」の蔓延にご注意を!?

自社でノーレイティングを取り入れる場合には、マネージャー層が適切にフィードバックを送ることができるように教育する必要があると言えるでしょう。

※フィードバックの送り方についての記事はこちら

②評価がマネージャーの力量次第

ノーレイティングでは、一律の明確な評価基準を設けない点が特徴です。その特徴により、従業員1人ひとりに対して柔軟に評価を下すことができる一方で、評価に対する説明責任を果たすことが難しくなってしまうというデメリットがあります。ノーレイティングの不明瞭な評価基準により、逆に不満を募らせる従業員が多いことも事実です。

リアルタイムでフィードバックを送りあえるサービスを提供しているReflektiveが2019年に1,000人を対象にした調査では、全体の85%の従業員が、公正でない評価を下された場合には、「転職を検討する」と回答しています。

ノーレイティング記事.004

(※参考資料:Unfair Performance Reviews Prompt Most Employees to Consider Quitting

ノーレイティングを導入しているAdobe Systemsでは、マネージャー層への教育を徹底的に行なっています。以下の「6:先端企業3選」にて、詳しくご説明いたします。

 

5:先端企業3選

①Microsoft:不健全な競争を廃止しチームワークを重視

Microsoftは言わずと知れた、世界的大企業です。そんなMicrosoftですが、2000年から2010年の間は「失われた10年」と呼ばれ、AppleやGoogleといった会社にビハインドを取り大幅に株価を下げてしまいました。
(※参考記事:MICROSOFT’S LOST DECADE

「失われた10年」の原因の一つとして、同社の評価制度が挙げられます。Microsoftでは、Stack Ranking System(相対評価で従業員にランク付けをする評価制度)を長年に渡り運用していました。

【旧来の人事評価の課題点】

Microsoftが運用していたStack Ranking Systemでは、従業員を相対的に評価するため、20%の高評価層、70%の中間層、10%の下層が生まれます。

この制度のせいで、不健全な社内競争が生まれていたそうです実際、同社の従業員は以下のように述べています。

「自分が10人のチームに割り当てられたとき、『それぞれのメンバーがどんなに頑張っても、2人はGoodをもらえて、7人は普通で、残りの1人は最悪のレッテルを貼られるんだ』って出勤初日に思ったよ。結果として、競合他社と競うのではなく、隣の同僚と競うことになる。

(※参考記事:Microsoft Throws Stack Ranking Out The Window

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このように、仲間同士で不健全に競争する文化(カルチュラル・カニバリズム)が根付いてしまったために、チームとしての協力体制は生まれず、イノベーションが生まれる状況ではなかったそうです。また、優秀な従業員も、酷な評価を下される恐怖から退職してしまうという自体に陥ったそうです。

【新しい人事評価】

ノーレイティングにもとづいた新しい人事評価の目的は、「コミュニケーションのバリアを取り払うこと」でした。

新しい人事評価は日常のフィードバックの延長線上に位置付けられ、画一的なランク付けのシステムは取り払われました。

具体的には、
・チームとしてのパフォーマンス
・個人のパフォーマンス
のふたつの視点から評価が下されます。

従業員個人のパフォーマンスだけではなく、チームへの貢献度や、他の従業員の成功のためのサポートなども評価の基準となります。

また、Connectと呼ばれるリアルタイムでフィードバックを送ることのできるシステムを導入しました。そうすることで、「従業員の強み」、「改善点」、「改善するためにすべきこと」をフィードバックとして上司が一年を通して送ることができ、この延長線上に人事評価が位置付けられています。

②General Electrics:従業員の管理からパフォーマンスの向上へ

General Electrics(以下GE)は、世界最大の多国籍複合企業です。同社は、発明家トーマス・エジソンが、1878年にエジソン電気照明会社を設立して以来成長を続けてきました。
(※参考記事:CEOはわずか9人。インフォグラフィックで見るGE137年の歴史

発電から、航空機エンジン、医療機器まで幅広く事業領域を持つ同社では、2016年に40年間続いてきた旧来の人事評価から、「Fastwork」と呼ばれる新しい人事評価へと変更しました。

【旧来の人事評価の課題点】

旧来の人事評価では、一年に一度の目標への達成度を基準とした評価面談を通して従業員の待遇を決定していました。しかしながら、たった一度の短時間の評価面談で1年間の努力が正当に評価されているのか不信に思う従業員もいました。

また、Microsoftと同様に相対評価によるランク付けを行なっており、1-5のスケールでランク付けが行われ、最底辺の従業員は強制的にクビになるという厳しい評価制度でした。

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(※参考記事:How GE renews performance management: from stack ranking to continuous feedback

【新しい人事評価制度】

2016年度から導入した新しい人事評価は「Fastwork」と呼ばれており、「Inspiring&Empowering」(鼓舞することと力を与えること)をテーマとしています。
(※参考記事:How Does GE Do Performance Management Today?

具体的には、Performance Development(PD@GE)と呼ばれるアプリを使用して、日常的にマネージャーから部下へのフィードバックを送ることを可能にし、従業員のパフォーマンスを向上させることにを狙いにしています。
(※参考記事:Performance Development(PD@GE)

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実際に、Fastworkを取り入れた結果、「上司から期待されている事が明確に分かるため、モチベーションが上がった」といった声や、「以前の様にむやみに叱られることはなく、上司が改善点を示す様になった」といった声が上がっているそうです。

GEの様な大企業では、アプリを使用して日常的にフィードバックを送る事ができる様に工夫する必要もあるでしょう。

※フィードバックの送り方に関するこちら

③Adobe Systems:評価への納得度を高めることに成功

Adobe Systemsはアメリカに本社を構える、コンピューターソフトウェアの会社です。PDFの閲覧・編集をする際に、一度は見たことがあるのではないでしょうか?他にも、クリエーターには必須のPhotoshdopなどのソフトウェアを提供しています。

Adobe Systemsでは、2012年に旧来の人事評価を刷新し、「チェクイン」と呼ばれる、継続的なフィードバックを基本とする新しい人事評価へと移行しました。

【旧来の年次評価の課題点】

旧来の人事評価では、MBO(Management by Objectives)をベースとした、一年の最初に目標を設定し、その目標に対する達成度で一年の終わりに人事評価を下していました。

しかしながら、一年に一度の短時間の評価面談では従業員は納得度を得ることができず、モチベーションを高めることができていませんでした。それにも関わらず、部下と対話をする代わりに年間8000時間を評価のためのペーパーワークに充てていることが判明しました。

マネージャーへの負担に対して、評価の質が低いために、優秀な従業員が転職してしまうことも多かったそうです。
(参考記事:Managing without performance reviews

【新しい人事評価】

新しい人事評価である「チェックイン」では、継続的なフィードバックをベースとしています。チェックインの特徴は以下の通りです。

ピープルマネジメントの記事.011

上記の表からもわかる様に、最大の特徴は「継続的な対話の延長線上に人事評価を位置付けた点」です。

その結果、「マネージャーに自分の働きをしっかりとみてもらえている」「困った際には、サポートしてもらえる」といった感想を持ったそうです。

また、継続的な対話をベースにした人事評価を行うため、評価への納得感も向上し、離職率も低下しました。

実際、アンケートの結果、以下のような数値の向上がありました。

・「アドビを働きがいのある会社として勧められる」と回答した社員が10%増加
・「上司からのフィードバックが役立つものである」と回答した社員が10%増加

※チェックインに関する記事はこちら

【チェックインにおける従業員への待遇の決定方法】

Adobe Systemsのチェックインでは、直属の上司によって部下の給与・昇進の意思決定が行われます。上司が部下の待遇を決定する権限を持つことのメリット以下の通りです。

【メリット】
✔︎部下1人ひとりに対して柔軟に待遇を決定をすることができる。
✔︎日頃のフィードバックをもとに評価されるため、評価への納得度が高い。
✔︎日頃のフィードバックが前提にあるため、部下のパフォーマンスをあげることができる。

一方で、最大のデメリットして「部下の待遇の決定が上司の力量次第」という点が挙げられます。

同社では、上記のデメリットを解決するために、以下の3つの取り組みを行なっています。

⑴マネージャー層の基礎的なマネジメント力の育成

同社ではチェックインを導入する以前に、以下の基礎的なマネジメント能力の向上を目的としたトレーニングを行いました。

【基礎的なマネジメント能力】
・自身が部下に対して期待することの伝え方
・部下のパフォーマンスをあげるためのフィードバックの方法
・部下のキャリアの育成方法

⑵マネージャー層のマインドセットの育成

マネージャー層が「経営者」のように考えるために、以下の質問をマネージャー自身に投げかけさせています。

Q:その部下はどのように目標達成へと動いたのか?
Q:その部下はどのような影響力をもち、会社でどれだけ重要な存在なのか?
Q:その部下は他の人にはないような特別なスキルを持ち合わせているのか?

上記の質問を待遇を決定する際に自身に投げかけることで、評価への一定の合理性を確保すると同時に、マネージャーの意識を企業レベルまで引き上げています。

⑶豊富なサポートプログラム

同社では、マネージャー層がヘルプを求めた際に対応するため、エンプロイー・リソース・センター(Employee Resource Centre)と呼ばれる部署を設けています。オンラインでも電話でも必要な際に部下へのフィードバック・評価に関して、アドバイスやコーチングを受けられる仕組みです。

また、多種多様な部下のモデルケースを用意することにより、どのように待遇を決定すべきかを示しています。

(※参考記事:Yes, You Can Reward Employees without Ratings and Rankings

 

6:まとめ

今回の記事では、新しい人事評価として注目を集めている「ノーレイティング」について説明しました。継続的なフィードバックの延長線上に人事評価を設けることにより、旧来のランク付けを行わないことを特徴としています。

「ノーレイティング」には様々なメリットがある一方で、導入・運用には様々な困難があることも事実です。しっかりと、自社に合う評価制度を構築する必要があると言えるでしょう。

また、「ノーレイティング」を導入する際には、マネージャー層の能力が非常に重要になる点もポイントです。

評価制度に関する記事はこちら

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