新入社員へのマネジメントに今、変化が求められています。
厚生労働省の調査では、新入社員の3年以内の離職率は約3割ほどです。また、社員の退職理由の半分はマネージャーが要因だと言われており、新入社員も例外ではありません。
※参考:「マネジメント・ショック」到来。いま、マネジメントはどう変わるべきなのか?…では、どのように変化していくべきでしょうか。
そのヒントになるのが、「社員の強みを伸ばすマネジメント」です。アメリカの調査会社であるGallup社によると、下記のようなデータがでています。
- ・マネージャーが社員の強みに注目すると、61%の社員が積極的に仕事に関与し、積極的に離職の意思を示すのはわずか1%になる。
- ・社員が自分の強みを活かすと、より積極的に仕事に取り組み、良いパフォーマンスを発揮して、会社を辞めにくくなる。
また2019年には、内閣府から「新たな価値を生み出すのは、『均等に満遍なく出来る人材』ではなく、『全く枠には収まらないが、何か突き抜けている人材』だ」と示されています。
※参考:「価値デザイン社会」実現に向けた検討の論点整理(案)
このような背景から、経験の浅い新入社員に対しても、かつてのような「できないことへの叱責・詰め」ではなく、「その個性や強みを伸ばすコミュニケーション」へと進化が迫られているのではないでしょうか。
そこで今回は、新入社員に送るべきフィードバックについて、実例を交えてご紹介します。
ビジネスにおけるフィードバックとは、「その人のパフォーマンスの良し悪しを伝え、聞き手の成長を促すこと」です。
※参考:フィードバックの意味とは? ビジネスでの使い方・フレームワーク・企業事例を徹底解説
まず、フィードバックのフレームワークをいくつかご紹介します。
①FEEDモデル
最も基本的なフィードバックのフレームワークです。以下の頭文字をとって、FEEDモデルと呼ばれています。
F:Fact その人の行動の事実の確認
E:Example なぜ、その行動にフィードバックするのか
E:Effect その行動が周囲に与えた影響
D:Different 代替案、改良案
特徴は、フィードバックする事実や背景を最初に伝える点です。送り手の意図が伝わりやすく、具体的な改善策の提案もあるため、受け手は行動を改善しやすいです。
②SBIモデル
SBIモデルは「リーダーシップ」により焦点を当てたフレームワークです。以下の頭文字をとってSBIモデルと呼ばれています。
S:Situation 客観的な状況
B:Behaviour その人の行動・立ち振舞い
I:Impact 他者・周囲に与えた影響
具体的な事実や影響を伝えることは、FEEDモデルと共通しています。一方で、提案やアドバイスはせず、受け手自身に考えてもらう点に違いがあります。
③Culture Ampのフィードバックの補強方法
リアルタイム評価ツールの最大手企業であるCulture Amp社によると、フィードバックでは次のようなフレーズを伝えることで、よりその質が高まる、としています。
- 「日々のあなたに感謝していることは…」
- 「あなたは…で、素晴らしい仕事した」
- 「今の…に関連して、…も取り組んでほしい」
- 「あなたは…について、素晴らしい能力を持っており、尊敬している」
- 「実際に…の場面で、周囲に良い影響を与えている」
- 「私が他の社員から聞いた、あなたのフィードバックを話してもいいですか?」
※参考:Employee Feedback Examples for Development and Evaluation
このように、ポジティブな表現でフィードバックを伝えることで、受け手もそれを聞き入れ、次の行動に繋げやすくなります。
フィードバックに近しい概念として、「フィードフォワード」という考え方があります。
フィードバックは過去の行動や言動にフォーカスしますが、フィードフォワードはより未来志向である点が特徴です。
そのため、フィードフォワードのフレームワークは、現在とは異なる方法でパフォーマンスを高めるようなコミュニケーションになっています。
- 変えて欲しい行動・言動を伝える
- 改善策を伝える
- 改善策のメリットを伝える
しかしながら、実際に日々のコミュニケーションの中で「ここまでがフィードバック、ここからがフィードフォワード…」と考えて話すことは稀です。
そのため、コミュニケーションの中にフィードバック/フィードフォワードのフレームワークに共通した以下の要素が含まれているかを意識してみると良いでしょう。
- 「具体的な行動」
- 「周囲への影響」
- 「改善策の提案」
- 「その効果・影響」
また、新入社員ならではの要素として、「今の立ち位置」の観点を加えると良いですね。今の立ち位置とは、事業部や会社視点、長期のキャリアの視点から見える、現状を指します。
特に新入社員は目の前の仕事に手一杯で、視野が狭くなりがちです。
そのため「今の仕事の全体像」や「将来やりたいことへの繋がり」といった大きな視野から現状を伝えて、背中を押してあげるコミュニケーションが大切です。
一方で、避けたほうが良いフレーズもあります。次の5つは、特に評価面談では避けたほうが良いでしょう。
- 具体性のない極端な表現 例:「あなたは常に…だ」
- 一方的な指示 例:「こうしなさい」
- 周囲から(負の)評価 例:「あなたのXXな点は、みんな困っています」
- 他者との比較 例:「他のメンバーと比べて、あなたは…」
- 成長の視点のない評価 例:「全てが素晴らしい!」
※参考:5 Phrases You Should Never Use in Performance Reviews
こうしたフレーズはフィードバックの納得感を下げるばかりか、劣等感や疎外感を煽り、自ら考えて成長する機会を奪ってしまいます。
では、具体的にどのようなコミュニケーションするべきでしょうか。ここでは新入社員へ、よくアドバイスやフィードバックする場面で、悪い例と良い例をご紹介します。
<Case1>業務のアドバイス 〜営業同行の後にアドバイスをする場合〜
・悪い例その1
このフィードバックの、悪いところはどこでしょうか。
商談が良くなかったことはわかりますが、受け手にストレスを与える表現になっています。「営業として」「社会人として」等、姿勢・意識への言及は特に気をつけましょう。
フィードバックは成長のために行うものですが、こうした指摘は人格否定と受け取られてしまうこともあります。次の対策を相談する気力や活力を削いでしまっては逆効果です。
また具体性が無いため、次から何を直すべきかも不明確です。これでは、「上司に散々怒られたし、今日は同期と飲んで全部忘れよう…」という反応で終わってしまうかもしれません。
では、どのように伝えるべきでしょうか。
・良い例その1
やや長いですが、表現が丁寧ですね。具体的な事例があるため振り返りやすく、次のアクションが入っているので対策も打てます。
長期的な視点で、改善することのメリットを伝えているため、悪い例と比較しても行動の意欲も高まるでしょう。
<Case2>日々の1on1の場 〜新入社員の目標の進捗が芳しくない場合〜
・悪い例その2
良くないのは、「一方的な指示」になっていることですね。これでは個人の成長が促進されません。
また一方的に相手を叱責するだけになってしまい、これもエンゲージメントの観点からも望ましくありません。特に他のメンバーとの比較は、チームに疎外感や不信感を招くため、避けるべきです。
・良い例その2
…続きは、この1on1の全文書き起こし記事から、どうぞ。
1on1は対話しながら進んでいくため、フレームワーク通りにフィードバックを伝えることは難しいかもしれません。
そうした場合は、フィードバックの目的である「聞き手の成長を促すこと」に立ち返りましょう。
今回はマネージャーが内省を促して、解決策を一緒に考えることで、前向きに次の行動へ進めるようにサポートしています。
<Case3>評価面談 〜はじめての評価を伝えるとき〜
・悪い例その3
今回も、直すべきところが不明確です。これでは印象論と思われて、十分に聞き入れなかったり、聞いたとしても改善策のイメージが湧きません。
もし、これを話している最中に相手と目線が合わなくなったり、相槌がなくなったりしたら、受け手は心を閉ざしているか、納得していないかのどちらかです。
受け手の将来や、キャリアのことも考えておらず、突き放した印象を受けるでしょう。
・良い例その3
いかがでしょうか。
最初に具体的な事実に基づいてフィードバックしているため、受け手は同じ評価であっても「自分を見てくれている」印象を受けるため、納得度は先程よりも高いでしょう。
中盤の改善策の部分も押し付けではなく、提案の形を取っているため、受け手が自ら考えて、今後の対策を考えられます。
後半の文章からは「一緒に対策を考えている」「自分の将来を応援してくれる」ことが感じられ、受け手のエンゲージメントにも良い影響を与えるでしょう。
今回の記事では新入社員へ送る、フィードバックの方法と具体例をご紹介しました。
フィードバックに正解はありません。しかし、そもそも社員の特性や仕事内容、今後の希望を知らない状態では、相手を成長させるフィードバックは送れません。
そのため実務的には、1on1のように新入社員と定期的に話す場を設けて、事実を確認しながら、サポートの方法について都度、方向修正していくことが重要です。
新入社員が相手だろ、つい上から目線で色々言いたくなりますが、フィードバック/フィードフォワードについて学び、より成長を促すコミュニケーションを取り入れてみてはどうでしょうか。