コロナ禍により、ますます加速するDXの波。
DXは、経済産業省が発表した「DX推進ガイドライン Ver.1.0(平成30年12月)」によると、以下のように定義されています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
これは、一言でいうと、「企業がデータやデジタル技術を活用し、組織やビジネスモデルを変革し、競争優位性を確立すること」です。
DXがテーマにされるときは、デジタル活用による業務プロセスの効率化について語られることが多いですが、その本質は「デジタル活用による、顧客体験や従業員体験(以下、EX)の向上」にあります。
その中でも特に注目すべきが、「マネージャー体験」の向上です。今回は、なぜマネジメントにおけるデジタル化が重要なのか? どのようにマネジメントをデジタル化するのか? といったことをご紹介いたします。
マネジメント領域におけるデジタル活用を語る前に、まずはHR領域全体がデジタル活用によってどのように変化するか? についてお伝えします。
具体的に、どのような変化が予測されているのか? を以下の図にまとめました。
※参考資料:11 digitalization-driven changes in people management
そもそも、なぜHR領域においてデジタル活用が必要とされているのでしょうか。
まずは、「IT人材の不足による、労働生産性の低下」「第四次産業革命の可能性」「ニューノーマルな生活様式」といった様々な社会的背景があります。これにより、人事に求められる役割が大きく変化し、これまで以上に「人的資本の活用」が重視されるようになりました。
従来の人事管理システムは、評価や報酬、雇用管理の領域においてはこれまで通り機能するでしょう。
しかし、「いかに人的資源を戦略的に開発・配置できるか」という点に焦点を当てると、ただ人材を「管理」するだけのシステムではなく、メンバーのパフォーマンスや日常のマネジメントを改善するシステムが必要となります。
そこで、マネージャー・メンバーの行動や意識を変容させるマネジメントツールや、データを活用してスキルを可視化し、人材配置を行うタレントマネジメントツールなどの需要が高まっているのです。
また、コロナ禍を通じた今後のHRにおける重要課題として「EXの向上」を上げている企業も多く存在しています。
メンバーの精神的・肉体的な健康をサポートした組織では、ハイパフォーマーの割合が21%増加したというデータもあり、ビジネスインパクトも期待できる領域です。
これまでは「従業員として」の体験向上に注目が集まっていましたが、仕事とプライベートの境界が曖昧になりつつある現代では、「個人の人生そのもの」が豊かになるようなサポートも企業に求められつつあります。
では、デジタルを活用すれば従業員体験の向上が見込めるのか? というとそう簡単にはいきません。「従業員のエンゲージメントの70%は、マネージャーとの関係性によって左右される」というデータもあるように、EXの向上には「マネージャーとメンバーの関係性」が大きく影響を及ぼしています。
しかし、日本国内のマネージャーのうち87.4%がプレイングマネージャーとされる調査結果もある現代においてはマネージャーには過度な負担がかかり、メンバーとの関係性を細やかにケアすることが難しくなっています。
さらに、コロナ禍によって普及が加速した在宅ワークも大きな影響を与えています。
Gallup社の調査では、労働者の65%は今後も在宅ワークでの勤務を望んでいるとされていますが、リモート環境下ではこれまでのマネジメントが通用しないため、不安を覚えているマネージャーも増えているのが現状です。
そこで、まずはEXを向上させるために、マネジメントの改善にデジタルを活用するという視点を見逃すことはできないでしょう。
さらに、「マネジメント」そのものに対する認識も大きく変化させなければなりません。
1990年代ごろまでの日本は高いGDP成長率を維持し、個人よりも会社のパワーが強く、「終身雇用」「年功序列」といったシステムに支えられたキャリアが一般的でした。
しかし、この数十年でGDP成長率は停滞し会社のパワーが脆弱化、「個人がどうキャリアを描き、生きていくか」といった問いがなされるようになりました。
さらに、働き方改革の推進や、ミレニアル世代やZ世代、外国籍人材などの人材の多様化により、従来の「仕事を管理実行する『怖いボス』」のようなマネジメントが通用しなくなってきています。
そこで、注目されているのがメンバーのパフォーマンスを最大化させる「優れたコーチ」のような存在です。チームの成果だけでなく「個人」の成長にも貢献します。
個人の成長をサポートするには、まずは「目標管理」「1on1」「フィードバック」などのマネジメントイベントを見直す必要があります。
たとえば、年単位で目標設定・評価を行うMBOのような目標管理制度ではスピードや柔軟性に欠け、「VUCA(※)時代」においては足かせとなってしまう可能性もあります。そこで、外部環境の変化に合わせて目標をピボットする、といった考え方を取り入れることが有効です。
※Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとり、不安定で不確実、複雑な時代を表現する言葉
さらに、見直した目標へと行動を適応させるために、1on1などの場を通じてメンバーに対しリアルタイムにフィードバックを行うことも重要だとされています。
実際、上司から定期的にフィードバックを受ける従業員は、そうでない人と比較し3倍以上エンゲージメントが高いというデータもあり、フィードバックの効果は計り知れません。
つまり、外部環境の変化の激しい時代においては、これまで以上に細かいサイクルでマネジメントを実行し、メンバーが状況を判断しながら自走できる環境を作ることが組織パフォーマンス向上の鍵を握るということです。
では実際に、どのようにデジタルを活用すべきかについて、ふたつの観点からご説明いたします。
まずひとつめは、データ活用によってメンバーのスキルを可視化し、育成をサポートする方法です。
市場環境の変化とともに、ここ数十年の間でビジネスパーソンに求められるスキルも変化してきました。日本においても、かつては労働生産性を向上させるためのスキルアップが求められていましたが、現在においては思考力や共感力、創造性といった定量化できないスキルが求められるようになり、部下の育成の難易度が増しています。
さらに、雇用形態が柔軟になり、「複業」といった働き方も受け入れられるなど、個人のキャリアも多様化し、マネージャーとしてもメンバーとどのように対峙すべきか頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。
そこで、社員や組織に関する「データ」を収集・分析することで、人材育成をサポートする企業が出てきています。
例えば、IBM社では「Skills Value Framework」と呼ばれる、これから必要とされてくるスキル、まだまだ需要があり維持されていくスキル、これから下火になっていくスキルをAIを用いて分析し可視化する取り組みがあるそうです。このフレームワークを参考に、部下とのキャリア面談も実施されているといいます。
また、各人のスキルギャップを埋めるために必要な推奨コンテンツが提示される「Your Learning」と呼ばれるオンライン型の学習コンテンツも用意されており、プロジェクトのアサインに際して参考にすることもあるそうです。
参考記事:「AI + ヒト」の力で、人事領域にもアジャイルな意思決定を。日本IBMのビジネスHR戦略 - SELECK(セレック)
AIがオンライン学習を提案してくれるのであれば、マネージャーは必要なくなるのでは? と思うかもしれません。しかし、IBMではメンバーとマネージャーの関係性がエンゲージメントに関係していることを考慮し、マネージャーに対しては「メンバーの学習を推進させるアクション」をAIが提案しているといいます。
加えて、様々なデータから「どのメンバーが、最も高い給料を得るべきか?」を分析する機械学習を導入されていたり、パーソナライズされたダッシュボードでは「どのメンバーを昇進させるべきか」を提案するアラートが搭載されていることで、マネージャーとメンバーのコミュニケーションの透明性が担保されているといいます。
こうしたIBM社の取り組みのように、メンバーのスキルを可視化し、不足しているものはオンライン学習もできる環境を整えることで、メンバーとのコミュニケーションを円滑にしながらマネジメントの属人化を防ぐことが可能です。
さらに、一連の取り組みによって離職率が改善しメンバーの定着率が向上したことで、コスト削減にも大きく貢献したといいます。マネジメントを改善することで組織パフォーマンスに与える影響は大きいといえるでしょう。
参考記事:REBOOTING WORK FOR A DIGITAL ERA - How IBM Reimagined Talent and Performance Management
また、エンタープライズ向けに様々なソフトウェアを開発しているNICE社でも、AIを活用したマネジメントツールの導入によって組織のパフォーマンスを向上させているといいます。このAIは、メンバーのパフォーマンス改善が必要な領域をマネージャーに示すことで、データ分析の効率化を測っているそうです。
その結果、目標達成の動機付けを行うことができるようになったり、従業員にパーソナライズされたコーチングプログラムを作成できるようになったといいます。加えて、ゲーミフィケーションのメカニズムを活用した独自のタスク(グループコーチング、ピアコーチング、1on1コーチング、クイズ、知識習得など)を提供することで、育成にも貢献しているそうです。
参考記事:NICE Performance Management With AI-Based Analytics
そしてもう一つは、マネジメントツールを活用することで、組織に合わせたマネジメント文化を組織に根付かせる方法です。文化として根付かせることでメンバーの自走力の向上にも寄与します。
もちろん「ティーチング」「コーチング」「フィードバック」をはじめとした各マネージャーのマネジメントスキルを育む施策も重要ですが、マネジメントは「日常的」なものであり、どれだけマネージャーが部下の状況を把握し、向き合えるか? ということが最も重要です。
マネジメントにおいて、「目標の進捗が可視化されていないため、表層的な業務の話しかできていない」「目標を意識するのが期首期末なため、フィードバックに時差がある」といった問題も、部下の状況をリアルタイムに把握し、フィードバックできる環境が文化として根付いていれば解消が実現できるかと思います。
弊社が提供するマネジメントツール「Wistant(ウィスタント)」では、目標設定・1on1・評価 / フィードバックの3つのマネジメントイベントのサイクルを組織に根付かせる役割を担います。
日常的にアクセスするチャットツールとの連携も可能であり、「ナッジ」の活用によってメンバーの自律性を育むことも可能です。
Wistantを導入するvivit社では、目標設定・1on1・フィードバックのマネジメントイベントの見直しを行い、メンバーのパフォーマンスを大きく高めることに成功したといいます。
同社は元々、四半期ごとに各自の目標を立てていたものの、目標を意識するタイミングが期首期末くらいだったため進捗を振り返る機会がほとんどなかったといいます。さらに、目標の達成基準も曖昧だっため、個人の頑張りが適正に評価されていないという課題があったそうです。
そこでWistantを導入した結果、1on1を通じて目標の進捗確認や業務の課題解決を行う文化が浸透し、Wistantを使ってマネジメントサイクル回したこの四半期の、目標達成度の「A評価(達成ライン)」が71%→89%に、「S評価(120%達成)」が29%→56%まで上がるといった効果がでているといいます。
さらに、マネージャー自身も「何のためにマネジメントをやるのか」といった意識が芽生え、マネジメントの型を学んで自社流にアレンジするなど、自主的な動きも盛んになってきたそうです。
村山さん 率直な意見でいうと…導入して本当に良かったなと(笑)。
真面目に目標を追えばしっかり達成できるんだ、ということを実感できたことが大きいですね。もともと開発部はリソース不足で、目標というよりはいつも目の前のタスクに追われてしまうことが多かったので、ここは本当に大きな変化だと思います。
あとは、自分自身が一番成長したんじゃないかなと思います。もともとなんとなくやっていたマネジメントを、何のためにやるのかということをしっかり考えることができました。
河村さん 自分としてはまず、1on1で話す内容が変わりましたね。単なる雑談ではなく、目標に対しての進捗確認や、業務の課題解決ができる場になりました。
Wistantを使うと事前に1on1のアジェンダを設定できるので、メンターからすると、すごく話しやすいんですね。「何かありますか?」と聞かれるより、具体的なテーマがあったほうが話しやすいし、得られる情報量が違うじゃないですか。
参考記事:「S評価」が29%→56%に!「目標達成するチームづくり」に成功したvivitの取り組みとは?
最後に、こうしたマネジメントツールを導入する際に注意すべきことをご紹介します。
組織の規模やフェーズによって、目標の立て方やフィードバック方法などが変わる可能性を考えると、柔軟にカスタマイズできるものかどうか? という点を重視しておくことをおすすめします。
加えて、文化を形成するためには、日常的に使用できるものかどうか? メンバー同士のコミュニケーションを円滑にするものかどうか? といった点も重要です。ぜひ参考にしてみてください。
以上、マネジメントにおけるデジタル活用の可能性についてお伝えしてきましたが、いかがでしたでしょうか。
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