労働人口の減少、働き方改革、転職市場の活発化....労働を取り巻く環境が大きく変化している現代おいて、「人事評価制度」は以前に増して重要度を増しています。
「評価」に対する従業員の不満は、離職率にも大きく影響を与える要素です。従って、多くの日本企業が旧来の人事評価制度の見直しを迫られています。
リアルタイムでフィードバックを送りあえるサービスを提供しているReflektive社が2019年に1,000人を対象にした調査では、全体の85%の従業員が、公正でない評価を下された場合には、「転職を検討する」と回答しています。(※参考資料:New Reflektive Research)
その一方で、2016年にLinkedIinが行った調査によると、69%の従業員は「仕事の努力が公正に評価された場合には、より仕事に熱心に取り組む」と回答しています。
(※参考資料:5 Employee Feedback Stats That You Need to See)
今回の記事では、「そもそも人事評価制度とは」「人事評価制度の種類」「それぞれの制度のメリット・デメリット」「先端企業3社の事例」をふまえ、自社の人事評価制度を見直すヒントをお届けします。
目次
1 : 人事評価制度とは?
2 : 人事評価制度の役割
3:評価を行う際のポイント
4 : 評価制度の種類【メリット・デメリット】
5:先端企業3社の事例
6:まとめ
人事評価制度とは、以下のように定義することができます。
①企業・組織全体の業績向上を最終の目的として
②それに対する労働者の貢献度・貢献可能性を
③公式化された科学的あるいは合理的な方法によって定期的に評価し
④その結果に基づいて労働者の処遇の改定・個別の選抜・配置・移動・能力開発等の決定に役立てるための制度
(※参考文献:2010年 (株)中央経済社 奥林康司 上林憲雄 平野光俊 『入門 人的資源管理』P112)
簡単に言い換えるなば、「企業のゴール達成に向けて、従業員の働きぶりを一定の合理性を持つ手段で評価しようとする制度」ということができるでしょう。
人事評価制度の最終的な目的は「企業・組織全体の業績向上」です。この目的を達成するために、人事評価制度は様々な役割を担っています。
人事評価制度は、昇給・賞与・昇格等の従業員に対する待遇を決定する際に活用されます。
(※参考記事:9 Benefits of the Performance Appraisal)
従業員の待遇を決める際には、それぞれの企業が自由に自社に合う基準を定めることができます。しかしながら、それが企業内で機能するためには、従業員が基準を受け入れている必要があります。
ポイントとしては、人事評価制度は従業員の待遇および、将来に大きな影響を与えるため、厳密さや公正さが非常に重要になります。
その一方で、人間が人間を評価する以上、必ず主観が入るため「完全無欠の」合理性を持つ人事評価を行うことは不可能です。それ故、「一定の」合理性を持つ評価(=できるかぎり合理的に、従業員が納得し不満が出ないような評価)を行う必要があります。
詳しいポイントに関しては、後ほどご説明いたします。
人事評価制度は、人材の配置や異動を決める際の参考材料となります。
特に、日本企業では人材を企業内で異動させる文化(=ジョブローテーション)が強く根付いているため、評価制度は重要な判断基準の一つとなっています。
(※参考記事:4 employment practices of Japanese companies…)
例えば、人事評価制度によって、能力の向上が認められた従業員は、より高度なスキルが必要とされる部署に異動することができます。その一方で、その部署の求める能力に達していない場合は、必要とされるスキルのレベルが低い部署へと異動することになります。
一方で、人事評価によって頻繁に異動を行うことは従業員の生活を大きく左右することにもなります。従業員としっかり対話を行った上で部署異動の決定を行う必要があると言えるでしょう。
また、企業によっては、社内公募を同時に行なっています。従業員が自らの意思で異動を申し出ることができるため、企業からの一方的な命令だけにならず、従業員の納得度をあげることができる仕組みとして機能しています。(※参考記事:The Benefits of In-house Recruiting)
人事評価では、企業・上司がその従業員に求めているスキルの「レベル」を示すことができます。つまり、従業員に目指すべき道筋を示すことができるため、彼らの学習意欲を刺激し自主的な成長を促すことに繋がります。(※参考記事:What’s the Purpose of Employee Evaluation)
その従業員が達しているレベルを、給与や職位で明確に示すことができると同時に、昇給・昇進するために必要なレベルを明示し、不足しているスキルを明確にすることができます。すると、スキルの取得に対するモチベーションを刺激することができます。
また同時に、日本企業に深く根付いている評価制度に基づく人事異動では、ジョブローテーションにより多様な仕事を経験させることができるため、その企業のジェネラリストを育成することにも繋がります。
一方で、学習意欲を刺激することや人事異動によるジェネラリストの育成には、必要とされているスキル・能力を従業員に明確に提示できることが絶対条件となります。何故ならば、目指すべき道筋が不透明なままでは、学習意欲を刺激することはできないためです。
人事評価は「ヒト」が行う以上、「完全無欠に合理的な評価」を下すことは不可能です。しかしながら、「できる限り合理的な評価」、つまりは「一定の合理性をもつ評価」を行わなければ従業員は納得できず、企業の中で人事評価制度は機能しません。
上記の事実を踏まえた上で、実際に人事評価を行う上でのポイントは以下の通りです。
評価をする際には、それぞれの企業で作成した評価基準をもとに従業員の評価を行います。その評価基準が曖昧では、評価者によって評価に大きな差が生まれてしまいます。
また同時に、求められるスキル・能力が曖昧では、従業員の成長意欲を刺激することができません。
大前提として、評価の基準を作成する際には、できるだけ具体的かつ明確に評価基準を作成するようにしましょう。
多くの企業では、年次、もしくは半期に一度のスパンで人事評価を行っています。しかしながら、その様な長期間に一度の上司からの一方的なフィードバックだけでは、従業員は納得することができません。
(※参考記事:半年に1度しか会話をしない上司から下される「人事評価」への不満 !? )
重要なことは、常日頃から部下に対してフィードバックを送り、その延長線上に人事評価を位置付けることです。そうすることで、評価者は被評価者の状況を常にアップデートできると同時に、より質の高い評価を下すことができるため、被評価者の納得度も向上します。
※フィードバックに関する記事はこちら
実際、PDFの閲覧・編集ソフトで有名なAdobe Systemsでは、継続的な対話の延長線上に人事評価を位置付けたことにより、評価への納得度の向上に加え、離職率の低下に繋げることに成功しました。詳しくは、後ほどご説明いたします。
他の従業員との比較(相対評価)は、不必要な競争を生むことに繋がります。また、従業員全体のレベルが低い状態であっても、常に一定の高い評価者が生まれてしまいます。
(※参考記事:Employee Evaluation How to Conduct…)
実際、Microsoftでは「上位〇%はS評価、下位△%はD評価」といった相対評価を2013年に廃止しました。相対評価では、評価にむらが出てしまうことに加え、部下の評価を上げようとするマネージャー同士の権力争い、同僚間の不健全な競争が発生してしまうためです。
(※参考記事:マイクロソフト、不評のスタック・ランキング制度を廃止)
人事評価を行う際には、その従業員1人ひとりに着目をし、他者と比較をしない絶対評価を行うようにしましょう。
人事評価制度はいくつかの種類に分類することができます。具体的には、人事等級制度(=従業員の位の高さを定める制度)を基準として、人事評価は行われます。人事等級制度を起点として、いくつか代表的な人事評価制度と、それぞれのメリット・デメリットをご紹介いたします。
職能資格制度は、多くの日本企業で1990年頃まで深く根付いてきた等級制度です。最大の特徴は、「その人の能力」が1番の基準となっている点です。「長期的な視点で、その人がどれだけの能力を発揮する可能性を秘めているか」を基準として、従業員の待遇を決定します。
具体的には、以下の3つの要素から人事評価が行われます。
【能力】
その等級にふさわしい職務遂行能力(=知識・技能・判断力・企画力・指導力など)が「どれだけ身についているか」「どの程度開発することができたか」「どれほど成長する可能性があるのか」を基準として判断します。職能等級制度の中核部分であり、人事評価の際には最も重要視されます。また、「年数と共に能力は伸びる」という前提のもと機能するため、年功序列的な特徴を持ち合わせています。
【情意】
組織の一員としての自覚、意欲などを基準として判断します。言い換えるならば、取り組み姿勢と言えるでしょう。
【成績】
定められた期間の仕事について、どれだけの量の仕事をどれだけの質で行うことができたかを基準として判断します。
(※参考文献:2010年 (株)中央経済社 奥林康司 上林憲雄 平野光俊 『入門 人的資源管理』P113)
最大の特徴は、3つの評価項目の中で「能力」が最も重要視される点です。高成績だけ出していたとしても、高い評価は得る事ができません。逆に、以下の様な場合には、高評価を得る事ができます。
【高評価が期待できるケース】
・現時点で高成績を出していなくても、以前と比較して成績が伸びている場合
・長期雇用を前提として一所懸命学び続ける姿勢を示している場合
上記の様な場合には、「長期的な視点で活躍する可能性がある(=潜在能力がある)」と判断され、高評価を得る事ができます。
反対に、下記の場合では高評価を期待することができません。
【高評価が期待できないケース】
・成績(数字)だけ良いが、他者と協力せず、組織の一員としての自覚が低い場合
・成績は比較的良いが、以前と比較して成長していない場合。
職能資格制度は、短期的な仕事の結果を求めるのではなく、長期的な能力の成長を大事にする人事評価と言うことができるでしょう。
また、能力の成長は「勤務年数に比例する」という考えがベースにあるため、自然と年功序列的な組織構造になる点も特徴です。
職能資格制度では、「勤務年数に応じて能力が伸びる」という仮定のもと人事評価が行われます。実際、昇格・昇進の際には、「最低3年以上」といったように、勤務年数の要件があることが一般的です。それ故、長期的にその企業に従業員を留めることが出来ると言えるでしょう。
職能資格制度による人事評価では、仕事への姿勢や意欲が評価基準であるため、献身的にその企業に貢献することが強く求められます。
職能資格制度のもとでは長期的に従業員が一つの企業で従事するため、その長期間の間に人事異動を繰り返し行い、様々な業務を経験させることが可能です。そうすることで、その企業に根付いた幅広い知識を持つジェネラリストを育成することができます。
職能資格制度の基では、その組織に所属している年数が昇格の要件の一つです。それ故、優秀な若手は昇格の機会を待たなくてはいけないため、彼らの意欲を低下させてしまう可能性が高いです。
(※参考記事:なぜ日本の組織は優秀な若手の給料を2倍に出来ないのか)
職能資格制度では、その組織の一員として献身的に働くことが求められます。言い換えるならば、従業員それぞれの持つ視点が画一的になりやすくなります。また、変革を起こしたいと思う若いリーダーがいたとしても、年功序列的な制度の基では活躍することが難しいです。
その一方で、年功序列的に昇格・昇進は決まるため、経営層の年齢は高くなります。それはつまり、大きな変革を起こさなくとも昇格し、定年を自動的に迎えることになるため、変革に対する意識も低くなる可能性が高いという問題点もあります。
(※参考記事:トヨタ前代未聞の労使交渉、「変われない社員」への警告)
(※参考記事:会社にすがる「働かないおじさん」 もう逃げ切れない?)
職能資格制度で使用される評価基準は、曖昧な項目であることが一般的です。例として、判断力や企画力、責任感、規律性、協調性などが挙げられます。
職能資格制度は、様々な職務で能力を転用できることを前提としているため、多くの職務で転用できるような一般的で曖昧な評価項目になります。それ故、評価者の力量次第で評価にばらつきが出やすいと言えるでしょう。
現代において、職能資格制度は機能することが難しいです。その最大の理由として、日本経済の停滞が挙げられます。
職能資格制度は高度成長期に多くの日本企業で普及していました。高度成長期の最大の特徴として、「経済が右肩上がりで成長し続けたため、商品を作れば作るほど会社が成長する」という点が挙げられます。それ故、長期間の雇用を前提とし、働けば働くほど給与をあげることが可能でした。
このように給与の上昇がある程度確保された時代では、変革起こすリーダーの必要性は低かったと同時に、評価の不公正さを給与で誤魔化すことができたと言えるでしょう。
しかしながら、経済が停滞している現代では、「経済が右肩上がりで成長し続けたため、商品を作れば作るほど会社が成長する」という条件が全く当てはまりません。そこに追い討ちをかけるように、転職市場の活発化や、人手不足が顕著になってきています。このような時代において、曖昧な評価基準では企業の存続はより難しくなってきていると言えるでしょう。
(※参考記事:「マネジメント・ショック」到来。【インフォグラフィックス】)
職務等級制度は欧米諸国で広く普及してきた制度です。職能資格制度が「人の潜在能力」を基準にしていたのに対し、職務等級制度では「職務の重要性」を基準としています。「その人の行なっている仕事が企業にとってどれだけ重要か」を基準とし、企業にとって重要と位置づけられた職務の給与や待遇は良くなり、重要度が低い職務の場合には待遇は下がります。
例えば、研究職の方が人事部よりも重要と位置づけられた場合には、同じ等級でも研究職の方が良い待遇を受けることができます。言い換えるならば、研究職の部長と、人事部の部長では、研究職の部長の方がより良い待遇を受けられるということです。
具体的には、以下の2つの要素から人事評価が行われます。
【職務価値】
各職務が企業にとってどれほど重要かを表したものです。マーケティング、人事、営業といったように、それぞれの職務ごとに重要度が測定されます。
【成果責任】
その従業員の担当職務への貢献度を基準として判断します。また、その人が仕事を通して生み出した付加価値を給与に反映させることができる点も特徴的です。
(※参考文献:2010年 (株)中央経済社 奥林康司 上林憲雄 平野光俊 『入門 人的資源管理』P67)
職務等級制度では、職務の価値で給与を決めることが可能です。例えば、マーケティングが人手不足なら、マーケティングの職務価値を以前より高くし人を募集することができる一方で、人事部の価値が低いのならば給与基準を下げ、人件費を抑えることができます。
職務等級制度では、評価項目が職務記述書(Job Description)と求める成果として明確に表されます。
人事部を例にとると以下のようになります。
【職務記述書】
①書類選考の最終判断
②全社共通での研修の立案・実行
【求める成果】
①一次審査後の人材レベルの向上による、工数の減少
②研修実施率・参加率の向上
職能資格制度と異なり、規律性や計画力といった曖昧な評価基準ではないため、ある程度の公平性を保つことができると言えるでしょう。
職務等級制度では、その職務のプロフェッショナルとなることが昇進するための条件です。それ故、高度で専門的な知識を保有するスペシャリストになるためのインセンティブが機能すると言えるでしょう。
職務等級制度では、その職務のプロフェッショナルを育成するため、他の職務で今まで獲得してきた知識を転用する事が難しくなります。仮に人材を異動したとしても、以前と求められる知識が異なり専門性が低くなるため、等級は以前よリも下がります。それは、減給を意味するため、従業員側もメリットを得る事ができません。このような理由から、欠員が出た場合や人手が足りていない場合には、新たに採用を行う事が一般的です。
職務等級制度のもとにおいて、従業員が待遇をより良くするために努力できる評価項目は「成果責任」のみになります。「職務価値」は労働市場の動きや企業の方針によって規定されるため、従業員自身で「職務価値」を向上させる事はできません。それ故、「成果責任」の項目で高評価を得ることしかできないため、短期的な成果主義に陥りやすいと言えるでしょう。また、その様な過剰な成果主義は不健全な従業員同士の競争が起きるきっかけにもなります。
職務等級制度では、高度で専門的な知識を身に付ける事ができます。それ故、そのスキルを求める他社がより良い待遇を提示してきた場合、従業員は容易に転職をする事が可能です。それ故、職務等級制度では給与体系以外にも他の手段で優秀な従業員を惹きつける必要があります。
※パタゴニアやスターバックスが従業員を惹きつけるために施している工夫はこちら
職務等級制度は、バブル崩壊後、高度成長期を支えてきた職能資格制度に代わる制度として注目を浴びています。仕事や貢献度によって柔軟に人件費を変動させることができるため、市場の変化が激しい現代により適していると言えるでしょう。
職務等級制度に基づいた具体的な人事評価の方法は、目標による管理(Management by Objectives:以下MBO)が主流です。
以下では、MBOについてご説明します。
MBOとは、目標に対する達成度で評価を下す人事評価のフレームワークです。
(※参考記事:グロービス経営大学院MBO(エムビーオー)とは・意味)
定められた職務の中で、どれだけ貢献する事ができたのかを測るために、「目標への達成度」という視点から評価を下します。
具体的には、事前に評価者と被評価者との間で、定められた期間(一般的に年に一度か、半年に一度)の間で達成すべき目標をすり合わせ、設定をします。評価は非常にシンプルで、設定した目標を上回る成果をあげた場合には評価が高くなり、逆に目標を達成する事ができなかった場合には低い評価が下されます。
※目標の設定方法についてはこちら
MBOは非常にシンプルなフレームワーク故にとても使いやすい反面、様々なデメリットがあることも事実です。
実際、MBOはもともと人事評価の仕組みとしてではなく、部下に対するマネジメントの手法として1960年代にドラッカーにより発案されました。定期的な部下と上司のコミュニケーションを通し、「部下が取り組みたいこと」と「企業の方針」を近づけた目標を設定し、目標を達成し成果を高めていくための仕組みです。
(※参考記事:ドラッカーが考えたMBO(目標管理制度)による人事評価・マネジメントが日本で機能しない理由)
そのため、日本における人事評価として機能しているMBOと、もともとのMBOは根本から目的が異なると言えます。
人材の多様性が増す現代において、半期に一度の評価面談だけで一括りに従業員を管理することは、難しいと言わざるを得ないでしょう。
Adobe Systemsはアメリカに本社を構える、コンピューターソフトウェアの会社です。PDFの閲覧・編集をする際に、一度は見たことがあるのではないでしょうか?他にも、クリエーターには必須のPhotoshdopなどのソフトウェアを提供しています。
(※参考資料:何をするためのソフトウェアですか(Acrobat Reader ))
Adobe Systemsでは、2012年に旧来の人事評価を刷新し、「チェクイン」と呼ばれる新しい人事評価へと移行しました。チェックインへの移行理由は、旧来の人事評価では市場の変化に追いついていけない事が最大の理由です。
旧来の人事評価では、MBOをベースとした「アニュアル・パフォーマンス・レビュー」を採用しており、一年に一度の年間の目標達成度合いを基準として評価を下していました。しかしながら、初期に設定した目標は市場の変化により、期末の評価時期には古びてしまっている自体が多発しました。また、評価のためだけにマネージャーは年間8000時間を費やしているのにも関わらず、年に一度のフィードバックでは部下は納得感を得られていないことが判明しました。結果として、従業員のモチベーションを刺激する事ができず、優秀な従業員を失ってしまうことも多かったそうです。
(※参考記事:Managing without performance reviews – and transforming the employee experience.)
このような背景から、Adobe Systemsでは継続的な対話ベースの「チェックイン」と呼ばれる人事評価へと完全に移行しました。
「チェックイン」の特徴は以下の通りです。
(※参考記事:How Adobe retired performance reviews and inspired great performance.)
上記の表からもわかる様に、最大の特徴は「継続的な対話の延長線上に人事評価を位置付けた点」です。
その結果、「マネージャーに自分の働きをしっかりとみてもらえている」「困った際には、サポートしてもらえる」といった感想を持ったそうです。
また、継続的な対話をベースにした人事評価を行うため、評価への納得感も向上し、離職率も低下しました。
実際、アンケートの結果、以下のような数値の向上がありました。
・「アドビを働きがいのある会社として勧められる」と回答した社員が10%増加
・「上司からのフィードバックが役立つものである」と回答した社員が10%増加
※チェックインに関する記事はこちら
General Electrics(以下GE)は、世界最大の多国籍複合企業です。同社は、発明家トーマス・エジソンが、1878年にエジソン電気照明会社を設立して以来成長を続けてきました。
(※参考記事:CEOはわずか9人。インフォグラフィックで見るGE137年の歴史)
発電から、航空機エンジン、医療機器まで幅広く事業領域を持つ同社では、2016年に40年間続いてきた旧来の人事評価から、「Fastwork」と呼ばれる新しい人事評価へと変更しました。
旧来の人事評価では、Adobe Systemsと同様、一年に一度の目標への達成度を基準とした評価面談を通して従業員の待遇を決定していました。しかしながら、そのたった一度の評価面談で1年間の努力が正当に評価されているのか不信に思う従業員もいました。
そこで、2016年度よりFastworkと呼ばれる、「Inspiring&Empowering」(鼓舞することと力を与えること)をテーマとした人事評価を取り入れました。
(※参考記事:How Does GE Do Performance Management Today?)
具体的には、Performance Development(PD@GE)と呼ばれるアプリを使用して、日常的にマネージャーから部下へのフィードバックを送ることを可能にし、日常のフィードバックの延長線上に、人事評価を位置付けました。
(※参考記事:Performance Development(PD@GE))
狙いとしては、以下の通りです。
・従業員のパフォーマンスを上げるため
・従業員の評価に正当性を持たせるため
・変化の激しい顧客のニーズに合わせて従業員の目標を柔軟に変更するため
実際に、Fastworkを取り入れた結果、「上司から期待されている事が明確に分かるため、モチベーションが上がった」といった声や、「以前の様にむやみに叱られることはなく、上司が改善点を示す様になった」といった声が上がっているそうです。
GEの様な大企業では、アプリを使用して日常的にフィードバックを送る事ができる様に工夫する必要もあるでしょう。
※フィードバックの送り方はこちら
Googleは検索エンジンを提供している、誰もが知っている大企業です。同社では、OKR(Objectives and Key Resultsの略)を取り入れ、目標管理と人事評価を分離しています。
そもそもOKRとは、組織の目標達成を目指すフレームワークであり、企業目標と従業員の個人目標がしっかりと結びついている点が非常に特徴的です。
(※参考記事:What is OKR? A goal-setting framework for thinking big)
(※参考記事:What is OKR?)
※OKRについて詳しくはこちら
目標管理と人事評価を切り離す事で、以下の様なメリットを得る事ができます。
目標の達成度が人事評価に直結するMBOの様な制度の元では、目標を達成できないことを恐れ、意図的に低い目標を設定してしまう可能性が高いです。
評価と言う監視がある元では、失敗を恐れて挑戦することを避けてしまう従業員も多いです。
目標は人事評価のために使用するのではなく、従業員が成長するために使用します。それ故、目標の進捗度合いは全社的にオープンである事が一般的です。その結果、サポートを必要としている従業員を直ぐに見つけ、サポートする事が可能になります。
重要な点は、目標と評価は直結していないものの、評価の材料にはなる点です。
具体的には、以下の基準でGoogleは人事評価を下しています。
【Googleの人事評価基準】
・Googleらしさ(Googleの価値観に対する執着)
・実行力、自律性(自分の力でどれだけクオリティの高い仕事をしたか)
・特定分野での専門性の高さ
・リーダーシップ
・社内での存在感
(※参考記事:GoogleのOKRと人事評価制度)
上記の項目の中に「目標の達成度が80%なら昇給する」といった明確な評価基準はありません。しかし、挑戦的な目標を設定せず、挑まなかった場合には「Googleらしさ」に合致しないために減給といった様な形になります。
今回の記事では、人事評価の基本的な役割から、種類、メリット・デメリットまで、3事例を通して幅広くご紹介してきました。
人事評価は企業によって形が大きく異なります。Adobe SystemsやGeneral Electricsのように、旧来型のMBOをベースとした評価制度からの刷新を迫られる企業も多いです。一方で、年輪経営で有名な伊那食品工業(株)の様に、年功序列的に評価する制度の下でも常に成長し続けている企業が存在することも事実です。
(※参考記事:【伊那食品工業】48期増収増益の「年輪経営」、永続する会社に人は集まる)
最も重要なことは、「自社に即した評価制度を取り入れる事」です。他社の評価制度をそのまま導入しても、従業員に受け入れられ機能する事は難しいと言えるでしょう。