今回は、ミッション・ビジョン・バリューの体現・浸透を強め、さらにスタートアップに合った柔軟な制度の運用を行うために人事制度のフルリニューアルに挑まれた株式会社クラッソーネ様のインタビューをお届けします。
わずか4ヵ月という短い期間で、行動指針、OKR形式の目標制度、1on1、評価フィードバックと、人事制度のフルリニューアルの全体図を設計。その後、Wistantチームが伴走しながら、合計10ヵ月にわたって本気のマネジメント改革に取り組んだ事例です。
▼インタビューさせていただいた方
株式会社クラッソーネ 代表取締役CEO 川口 哲平 様(写真左)
株式会社クラッソーネ 人事広報/CHRO 宮田 ゆかり 様(写真右)
▼株式会社クラッソーネについて
「『街』の循環再生文化を育む」をビジョンに掲げ、解体工事と外構(エクステリア)工事領域で、全国約3,000社の専門工事会社と施主をマッチングする一括見積もりWebサービス「クラッソーネ」「クラッソーネエクステリア」を運営されています。公式サイトはこちら。
▼お取り組みの全体像
ーーはじめに川口さん、宮田さんの簡単な自己紹介をお願いいたします。
川口さん 私は大学を卒業して、2005年から6年間セキスイハイム中部で注文住宅の営業マンとして働き、2011年にクラッソーネを創業しました。
当社は「『街』の循環再生文化を育む」というビジョンのもと、解体工事のプラットフォームを運営している会社です。
日本はこれまで、新しい街をたくさん作って発展してきた国ですが、人口が減少に転じたことで、これからは古い建物を循環再生していくことが人々の豊かさにつながっていくと考えています。
その起点となるべく解体工事のプラットフォームを作ってきて、現在は70名ほどの組織に成長しました。
▼現状の組織(同社採用サイト掲載の資料より抜粋)※2021年11月時点
宮田さん 私はクラッソーネで、人事と広報の責任者をしています。ジョインしたのは2018年の11月なので、ちょうど丸三年が経ったところです。
これまでの経験社数はクラッソーネを含めて4社なのですが、最も長く働いた会社はオリエンタルランドで、7年間人事をしていました。それ以前も大手企業に勤務していたので、実はスタートアップで働くのはクラッソーネが初めてです。
特に会社の規模感を意識していたわけではないのですが、比較的キャリアの早い段階から「会社の存在意義や提供価値」と「ビジネスとしてのマネタイズ」の両立をテーマに考えていて。
実際に人事として様々な経験を積む中で、やはり会社の存在意義や経営理念に重きを置かなければ、働く人も幸せになれないんだな、と感じるようになり、「Why」に共感できる会社に入ろうと決めたんです。そしてクラッソーネに出会い、ミッションに共感して、直感的に入社を決めました。
ーークラッソーネ様の組織の魅力について、教えていただけますでしょうか?
宮田さん 個人的には大きく二つあるなと思っています。
一つは、ここまで愚直にミッション、ビジョン、バリュー(以下、MVV)を浸透させようとしている会社はなかなかないのかなと。川口をはじめ経営層から、泥臭く、あの手この手を使って、本当に時間をかけて取り組んでいます。
もう一つは、クルー(※従業員の方の呼称)の人柄ですね。非常に誠実さがあり、周囲の人に貢献したいという利他心を持っている人が多いと思います。
川口さん そうですね。「個」と「組織」という観点からお話すると、個という観点では、本当に素直な人が多いと思います。
社会人歴が長くなってくると、どうしても世の中に対してうがった見方をしてしまうこともあると思うのですが、そうではなく、キレイごとであってもまっすぐ素直に「やりたい」と言える人ばかりです。
私の方が部下でもいいなと思えるくらい、尊敬できるクルーがたくさんいます。
そして組織という観点では、MVVと愚直に、真摯に向き合って取り組んでいるチームです。それがクラッソーネの組織の魅力だと思っていますね。
▼クラッソーネの社内風景
ーーとても素敵な組織をお持ちのクラッソーネさんですが、Wistantを知っていただいたきっかけは当社主催のHRブートキャンプ(※)ですよね。
※2020年11月実施。人事戦略と施策を考える1Dayブートキャンプとして、Wistantが実施した少人数制の勉強会
宮田さん そうですね。ちょうど1年ほど前ですが、当時は、人事制度に対していくつか課題感を持っており、リニューアルを検討していました。
大きく分けて2点あったのですが、まずは、変化の激しいスタートアップであるにも関わらず、人事制度の運用が複雑で柔軟性がなく、フェーズに合っていなかったこと。もう一つが、人事制度を通じたMVVの体現・浸透が弱かったことです。
▼人事制度リニューアルの目的(同社提供の資料)
宮田さん 他にも、当時は目標設定もしてなかったので、なかなかマネージャーがメンバーを支援できず、個人の成長につながらないことにもモヤモヤを感じていました。
川口さん 私も当時、組織に対して課題感はありました。もともと人事制度を作るときに、公平さや透明性をなるべく高めようとした結果、かなり細かく複雑になっていて。いまの会社のフェーズにはマッチしていないなと。
人事制度を作ったのは2018年だったのですが、そこから会社の成長スピードもどんどん上がっていったので、そのギャップはかなり大きくなってきていました。MVVについても、日頃から大切にしようと言っていたにも関わらず、制度では十分に体現できていない感覚がありましたね。
ーーそこからWistantの導入に至った決め手は、何だったのでしょうか。クラッソーネ様には、ツールの利用だけではなく2021年1月からおよそ10ヵ月に渡ってコンサルティングサポートもご提供させていただきました。
宮田さん ひと言で言うと、これらの目的にかなう人事制度設計をしっかり運用できる手段として、Wistantがベストだろうなと思ったんです。
特に、OKR(※)での目標設定から、1on1による成長・達成支援、評価フィードバックまでを含めて、自分たちがやりたい運用を一元化できるツールが、ありそうで意外となかったんです。1on1専用ツールや、評価専用のツールが多いんですよね。
※「Objectives and Key Results」の略で、目標(Objectives)とその達成のために必要な要素(Key Results」を会社、部署、個人で設計する目標管理制度。会社の目標と個人の目標をリンクさせ、ツリー型で目標管理を行うことが特徴。詳しくはこちら
あとはブートキャンプのときに、Wistantの方のお話を聞いて、人事制度に対する思想が当社の実現したいこととすごく近いなと。
私自身が大手企業の出身ということもあり、スタートアップに適した人事制度作っていくには少し知識不足だなと感じていて。その点、Wistantさんは知見も深く、壁打ちをしていただけそうだなと感じて、ぜひ二人三脚でのサポートをお願いしたいなと。
川口さん 私も宮田の話を聞いて、Wistantを通じて会社を良くしていけるイメージがとても湧いたので、ぜひ導入したいと伝えたことを覚えています。
宮田さん 人事制度って、アートとサイエンスの融合だと思っているんです。私自身は割とアート人間なので、「クラッソーネに合う人事制度ってこういうものだろう」という、おぼろげなイメージはもともと持っていました。
でも、それをサイエンス的に具現化していこうとするときに、Wistantさんとお話したことでそれが一気に進んだイメージがあったんですね。
実際、最初にお話してから2、3日で目指すべき姿の全体像を一気に作り込めたんです。アートが形になるまでに必要なインプットや、他社事例もたくさんいただいたので、とても参考になりましたね。
ーー実際に人事制度の改革を進めていくにあたって、まず描く未来の全体像があったのですね。
宮田さん そうなんです。その上で、優先順位を付けて取り組んでいったのですが、2021年2月にまず行ったのは行動基準の策定と導入でした。
▼制度リニューアルの初期設計(同社提供の資料)
宮田さん 当時、会社としてバリューを定めてはいたものの、それが行動指針のレベルにはなっていなかったので。人事制度をリニューアルするにあたり、まず物差しを作らなければダメだと思ったんです。
▼クラッソーネが掲げる三つのバリュー
▼バリューから、8個の行動基準を言語化(同社提供の資料)
宮田さん そこから皆で、「じゃあ、この行動基準にもとづく行動って具体的にはどういうことなんだろう」といったディスカッションをしたり、表彰制度や日常のフィードバックにも落とし込んだり、すべての行動の物差しとして社内に浸透させていきました。
川口さん もともと、バリューに対する共感は社内にあったのですが、振れ幅が一定数ありました。解釈がそれぞれの言葉になっていたものを、行動基準という形にブレイクダウンしたんですね。
宮田さん バリューは創業時から培ってきている価値観でもあるので、そこに支えられて、浸透自体はとてもスムーズに進んだと思います。
ーーこの行動基準が明確になったことで、その後の制度リニューアルにおける拠り所になったんですね。
宮田さん そうですね、これが柱になっていったと思います。その後、3月に新しい人事制度の全体像として、グレード評価、報酬、目標制度について全社に説明しました。
4月からOKRを使った新しい目標制度を運用したかったので、その前にどういった全体の仕組みの中でこの目標制度が運用されるのかを伝えたかったんですね。
どうやってOKRを立てていくのか、部署や個人のレイヤーにはどう落とし込むのか。初めての試みだったので、これがひとつの大きな山でした。
▼新人事制度の狙いについて説明(同社提供の資料)
宮田さん 新人事制度について、最初は情報量が多かったこともあり、みんな全ては理解できなかったかもしれません。
ただ、とにかく狙いは「MVV体現度を高めて、より良いサービスを早く届けられるチームをつくるため」のものだと言うことは、耳ダコというくらいに常に伝えるようにしていました。
宮田さん よく言われることではありますが、「ムーンショット(※)」で高い目標設定ができることですね。
※OKRで推奨される、困難だが実現すれば飛躍的な成長を遂げられるような目標のこと
そもそも大企業のように、現実的な目標設定をして、その達成度で評価と報酬が決まる仕組みは、スタートアップであるクラッソーネには馴染まないな、とずっと思っていました。加えて役員からも、戦略・戦術レベルの取捨選択を行うためにOKRの考え方を取り入れたいという話がずっとあったんです。
川口さん 複数の事業を運営しているので、会社としての力点をしっかりと定めたかったということがありましたね。
宮田さん 最初はみんなOKRが何かも知らなかったので、馴染むまでには半年くらいかかりましたね。ここが一番労力がかかったと思います。
試行錯誤を経てですが、今の運用は、クオーター(四半期)が始まる前月に全社OKRと部署OKRを決めきるようにしています。それをクオーターミーティングという四半期に一度の全社会議で発表した上で、2週間くらいかけて個人OKRを設定しています。
▼Wistant上でOKRを管理
ーーOKRを導入したことで、組織に変化はありましたか?
川口さん まだ改善の途上ではありますが、組織として何にフォーカスしているのかがわかりやすくなりました。また、事前に部長レイヤーまでOKRの擦り合わせを行った上でクオーターがスタートするようなプロセスを構築できたのは良かったと思います。
まず社内に前提や背景を共有した上で、考えてもらった目標に対して壁打ちをして、フィックスする。そして、実際に走ってみてどうだったかという振り返りを行う。今後、自走しながら成長していく組織をつくっていくために、このサイクルが今後はより重要になってくると思っています。
宮田さん OKRを運用し始めて3クオーターが経ちましたが、振り返るとすごく難しかったなと。
OKRの設定の仕方によってクルーの頑張り方、現場の運用しやすさもだいぶ違いますし、会社からのメッセージも変わるので、本当に改善を繰り返しながら今の形になってきた感覚です。
ーー続いて、1on1の全社での運用やフィードバックの改善にも取り組まれましたね。
宮田さん そうですね。1on1については、Wistant上で実施率や充実度を見ながらチェックして改善のサイクルが回せるので、本当に助かっています。
▼Wistantでは、1on1の実施状況や充実度を分析することが可能(イメージ画像)
宮田さん また評価フィードバックについては、フィードバックをする側のリテラシーがすごく重要だと思っているので、Wistantさんに事前に研修も提供していただきました。
特に、レーティングだけではなくコメントを重視することを徹底したかったんですね。なので、SBI情報(※1)に基づいて伝えるということと、フィードフォワード(※2)を大事にしていこうという話をしました。
※1 Situation(状況)、Behaviour(振る舞い)、Impact(影響)に焦点を当てたフィードバックのフレームワーク
※2 未来志向で、相手の将来の目標や得たい結果に対して、前向きな解決策を提示することで、当事者のやる気や自主性を促すもの
初めての取り組みだったので、1ヵ月以上かけてフィードバックの内容を精査して取り組みました。
川口さん フィードバックはまだまだこれからですが、私自身もやってみて、これは普段からしっかりメンバーのことを見ていなければできないな、という気持ちが強まりました。
Wistantさんの研修でも、「事実情報を基にフィードバックしないと、納得感は得られない」ということがとても強調されていて。かつ、最初から期待役割をちゃんと伝えていなければ後出しジャンケンにもなってしまう。
事前に期待値をしっかり擦り合わせた上で、事実情報に基づいて日々のフィードバックを行っていく。このように個人の成長を支援することで、それが組織成長や事業成長につながっていくのだろうと思っています。
ーーこれだけ一連の人事制度をリニューアルされたとなると、運用もかなり変化されたのではないでしょうか。
宮田さん 運用面は、かなりWistantに助けられているな、と個人的には思っています。
Wistantでは全社の目標も個人の目標も、進捗具合を含めて全部見える。かつ、1on1もフィードバックも、一気通貫で運用ができるので便利です。
例えばWistantで目標管理をしていくと、1on1の事前アンケートで目標ヘルスチェック(※)を挟めるので、必ず目標に対する振り返りをすることになります。すると、1on1の中でしっかり目標進捗の確認がされるので、メンター側も成長支援がしやすいんです。
※1人ひとりが自分の目標に対する「現状」を確認する、全5問のセルフサーベイ。※詳しくはこちら
▼Wistantが提供する「目標ヘルスチェック」(イメージ画像)
宮田さん リニューアルした人事制度を半年(1サイクル)運用して思うのは、Wistantを開く頻度が本当に上がったことです。
例えば、週に1回行っている部長会でも、各部の目標の進捗の共有をWistantで行っています。評価フィードバックも含めて、人事制度の運用がすべてWistant上で完結している感覚です。
川口さん 個人的には、Slackと連携できることがすごく重要なポイントだと思っています。
我々の場合、日常で一番使っているツールはSlackなので、そこにリマインドが飛んできてワンクリックで使えるUXがすごく良いなと。リマインドだけではなく、「◯◯さんが目標進捗を更新しました」といった通知も飛んでくるので、とてもよく考えられているなと思います。
▼Wistant上でのアクションやリマインドが、Slack上で通知される(イメージ画像)
川口さん 加えて、Wistantさんはサポートも素晴らしいなと思っていて。
人事制度は会社のカルチャーとつながっているものなので、ツールだけ使えればいいという話ではないんですよね。人事制度自体が社内で理解されて、会社にとっての当たり前になる必要があります。
特にOKRや1on1、人事考課制度を体系的に網羅するとなると、オンボーディングの負荷も高くなりますが、とても柔軟にご支援いただきました。
先ほどフィードバックの研修も話もありましたが、他にも経営陣に向けたOKRのディスカッション会でファシリテーターに入っていただいて、実際に立てたOKRの内容を中立的にフィードバックいただいたのが良かったです。そういうことって、内部の人間がやると角が立ちやすいですから。
そういったところまでのサポート体制があったからこそ、制度としてちゃんと運用できるようになった部分もありますね。
ーー嬉しいお言葉、ありがとうございます。一連の新しい人事制度を運用されて、トータルで見てbefore / after はいかがでしょうか。
宮田さん まだ1サイクル運用した段階なのでこれからにはなりますが、もともとの目的でもあったバリュー浸透はとても進んだと思います。
MVVに対しても一貫性を持って制度を運用できている感覚があるので、これがもっと定着・浸透していけば、空気のように当たり前の存在にもっとなっていくだろうなと。そのためのインフラを作れたことが、私としては一番嬉しく思っています。
川口さん その通りですね。加えて、次の課題が見つかった部分もあると思います。
例えば、我々のバリューのひとつ「Inspire Customer」は「顧客に価値提供をしていこう、感動させよう」という意味合いなのですが、じゃあ、具体的にはどんなことなの? という話を皆がするようになってきました。
人事制度と同じように、我々のサービスの提供価値についてももっとブレイクダウンして定めていく必要があるよねと。ここに取り組もうという話が進んでいることが、大きかったと思います。
ーー人事制度のリニューアルによって、また新しいチャレンジが見えてきていると。
宮田さん そうですね。もちろん人事制度の運用面でも、まだまだ改善していきたいところがあるという前提はあります。
その一方で、先ほど川口からもサービスの提供価値の話がありましたが、今のバリューにひもづく行動基準は、どちらかというと内向きなんです。逆に、外向きのバリュー体現はまだ弱いなと感じています。
顧客に対してのバリュー提供の解像度をもっと高めて、社内に共通理解として浸透させていく活動をちょうどこのクオーターから始めようとしています。
川口さん 企業戦略は、内部戦略と外部戦略に分かれますよね。内部戦略は、「ヒト、モノ、カネ、情報」という内部リソースをどう使っていくかの話ですが、外部戦略は、それを市場のどこに投入して、どういうアウトプットを出していくのかという話です。
その中で人事制度は、内部戦略のとても重要な部分だと思っています。それが整ってきたので、今度はそれを外部にどう出していくのかということが大事になってきます。そのために、バリューに加えて顧客への価値提供としての「ベネフィット」を定めました。
▼クラッソーネが掲げる三つのベネフィット
川口さん いくら一体感のある良い組織でも、何をやっていくのかが定まっていなければ当然価値提供はできないので、セットですよね。内部が徐々に整ってきたからこそ、今後はそれを外に出していくことが、次のフェーズのチャレンジだと思っています。
ーー まだまだチャレンジは続いていくのですね。本日は素敵なお話をありがとうございました。(了)