現在、再び話題になっている「ジョブ型」。しかし、この「ジョブ型」というビッグワードだけが先行してしまい、実態が掴めていない方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、「そもそもジョブ型とは何か」「メンバーシップ型(※)とジョブ型の違い」「それぞれのメリット・デメリット」「日本企業がジョブ型に移行する際の課題と解決策」を事例も交えて解説していきます。
※仕事内容や勤務地、勤務時間などを限定せずに雇用する従来の日本型雇用形態のこと
<目次>
・そもそも「ジョブ型」とは何か?
・メンバーシップ型とジョブ型の違い
・メンバーシップ型のメリット・デメリット
・ジョブ型のメリット・デメリット
・ハイブリッド型(ロール型、タスク型)
・【事例5選】日本企業がジョブ型へ移行する際の課題と解決策
「ジョブ型」とは、日本経済団体連合会によると以下のように定義されています。
「特定のポストに空きが生じた際にその職務(ジョブ)・役割を遂行できる能力や資格のある人材を社外から獲得、あるいは社内で公募する雇用形態のこと」(日本経済団体連合会(経団連))
つまり、「ジョブ型」とは、事業戦略の遂行に必要な職務(ジョブ)・役割を担う能力のある人材を社内外問わず雇用する組織形態のことを指します。
ジョブ型雇用は欧米では主流な雇用形態であり、ジョブ・ディスクリプション(※)によって職務・責任・権限・必要な能力(専門性)を明確に定義することが一般的です。
※担当する業務内容や範囲、必要なスキル、求められる成果などを明確化させた文書のこと
専門スキルや職務遂行能力が重視されるので、勤続年数や年齢に関係なく、若手が難易度の高い仕事に登用されることも珍しくありません。
前述した従来のメンバーシップ型雇用では、「年功序列型の報酬制度」「終身雇用制度」が基本です。従って、日本の高度成長期に代表されるような、技術や環境変化の速度が遅く、経済が右肩上がりの時代には適していました。
しかし、変化の速度が早く、人口減少も相まって経済も停滞している現代の日本にはメンバーシップ型が適さなくなってきたことから、ジョブ型の雇用が注目されています。
メンバーシップ型組織とジョブ型組織には、どのような違いがあるのでしょうか。
【考え方】
メンバーシップ型では、雇用している従業員に対して仕事を割り当てますが、ジョブ型では、戦略から落とし込まれた仕事(ジョブ)に人を割り当てます。
【報酬】
勤続年数や等級などで報酬が決まるメンバーシップ型に対して、ジョブ型では、年齢に関係なく役割の難易度や責任の大きさ、それに紐づく成果で決まります。
【採用】
メンバーシップ型組織では、新卒一括採用により安定して人材を確保できますが、その分教育を行う必要性が出てきます。「就社」(※)の概念が強く、ジョブ型と比べ、人材の流動性が低いのも特徴です。
※営業や企画、事務等のさまざまな職種を包括する総合職採用など、職に対してではなく会社に対して就くという考え方のこと
メンバーシップ型のメリット
・ジェネラリストの育成がしやすい。
・新卒一括採用で人材確保を行える。
・会社都合の部署異動・職務変更が可能である。
メンバーシップ型のデメリット
・投資対効果が合わない報酬を支払う場合がある。
・専門性を持った人材育成が難しい。
・仕事内容が曖昧で長時間労働になりやすい。
メンバーシップ型雇用では、ジョブローテーションを定期的に行ったり、研修を行うことでジェネラリストを育成しやすくなります。また、新卒一括採用で大量の人材確保を行ったり、会社都合での異動・転勤が可能なので、空いたポストに対する補充が容易であるといったメリットがあります。
その反面、年功序列の報酬制度によって、成果と報酬が見合わないという状況に陥る企業が増えています。さらに、担当する業務範囲や勤務時間を明確にしていないことによって、専門性の向上が難しかったり、長時間労働が起きやすいというデメリットもあります。
ジョブ型のメリット
・スペシャリストの採用、育成がしやすい。
・成果に見合った報酬を支払うことができる。
・役割が明確な為、リモートワークでも評価を行いやすい。
ジョブ型のデメリット
・ジェネラリストの育成が難しい。
・ジョブディスクリプションで定義されていない仕事の扱いが難しい。
・異動・転勤が原則できない為、人員補充が難しい。
ジョブ型雇用では、ジョブ・ディスクリプションの中で業務内容や範囲、必要なスキル、求められる成果などが明確化されているため、専門性の高い従業員を適切な報酬で雇用したり、専門性を高めることが容易です。また、求められる成果が明確なことによって評価も行いやすくなるメリットもあります。
その一方、ジョブローテーションがなく、担当できる業務が限られるため、ジェネラリストの育成は難しくなります。また、ジョブ・ディスクリプションに仕事内容が明確に定義されていることによって、そこに記載されていない仕事が放置されたり、チームワークが希薄になることも起こり得ます。加えて、異動・転勤が原則できないため、ポストに空きが出た場合には都度採用を行う必要があるというデメリットがあります。
海外企業におけるジョブ型では、ポストに対して雇用を行うため、ポストが不要になったり成果が見合わない場合は解雇し、新しく適した人材を雇うことが一般的です。しかし、日本では雇用期間を定めない無期労働契約の締結が一般的です。無期労働契約の場合、労働基準法で解雇が難しくなっており、終身雇用制度をすぐに廃止することは容易ではありません。
よって今後の日本では、海外のジョブ型をそのまま取り入れるのではなく、メンバーシップ型とジョブ型の特徴を併存させたロール型やタスク型などと呼ばれるハイブリット型の導入が進むと予想されます。
ロール型とは、メンバーシップ型の特徴とジョブ型の特徴を併存させた組織形態です。代表的な事例としては、リクルートグループがあります。同社では、雇用契約自体はメンバーシップ型の無期限正社員雇用であるものの、役割は明確にされており、役割の難易度や重要度によって報酬が決定する形を採用しています。
それに対してタスク型とは、職務を更に分解したひとつのタスクについてスポットで雇用を行う形態です。代表的な例は、Uber Eatsの配達員です。食事のデリバリーに関して、配達を行うというタスクを必要に応じてパートナーに依頼しています。
また、メンバーシップ型×タスク型、メンバーシップ型×ロール型というように複数の型を併存させている企業も既に存在しています。これらの例も参考に、「〇〇型」という型に囚われず、自社の事業や文化に即した組織形態を考えることが重要です。
ジョブ型への移行のような組織変革においては、「制度や構造に関する変革=ハード」と「人や風土に関する変革=ソフト」の両方が重要です。
ジョブ型に移行する場合、「ハード」とは、ジョブ・ディスクリプションの作成、評価・報酬制度の改定、雇用制度の整備を、「ソフト」とは、ジョブを着実に実行させるマネジメントを指します。
一般的にはジョブ型への移行と聞くと、「ジョブ・ディスクリプションの作成」、「評価・報酬制度の改定」、「雇用制度の整備」といった「ハード」の側面をイメージされる方が多いのではないでしょうか。
しかし、真にジョブ型を機能させる為には、多くの記事でも解説されているジョブ型の「ハード」の側面だけではなく、「ソフト」の側面も同様に整備する必要があります。
例えば、様々な人事制度を整えても、ジョブ・ディスクリプションで定義された役割が現場で実行されないと、評価・報酬制度も機能せず、せっかく整備した人事制度やジョブ・ディスクリプションもお飾りになってしまいます。
このように、「ハード」を整えたとしても、「ソフト」が整っていないと機能不全に陥る可能性があるのです。そこで、これからジョブ型へ移行したり、その要素を取り入れる日本企業は、制度や構造の変革と、それらが機能する為の土台となる現場の人や風土に関する変革の両方に取り組むことが重要なのです。
前述した通り、ジョブ型への移行には「ハード」と「ソフト」の両面において変化が求められます。その変化の中で、企業が直面する代表的な課題は次の5つです。
①どのような流れでジョブ型導入を進めればスムーズに進むのか。
②異動・転勤ができないと人員補充が困難になり仕事が回らないのではないか。
③幹部候補となるジェネラリストの育成が困難になってしまうのではないか。
④スピード感を持って移行を進めるにはどうすればよいか。
⑤ジョブディスクリプションを作成しても、それがしっかりと実行されるのかわからない。
これらの課題を解決しないことには、ジョブ型への移行に舵を切ったはいいものの、思ったような効果を得ることができないだけではなく、かけた時間や手間を無駄にしてしまう恐れがあります。
では、真に組織を変革するためにはこれらの課題をどのようにして解決していけば良いのでしょうか。
ここからは、日本においてジョブ型への移行に先進的に取り組んできている企業の事例やHRツールの活用事例を参考に、課題ごとの解決策を解説していきます。
<事例から見る課題ごとの解決策>
課題①どのような流れでジョブ型導入を進めればスムーズに進むのか
この課題に対するひとつの答えは、「役員や管理職からジョブ型を取り入れる」ことにあります。実際、ジョブ型をすでに取り入れている企業の大半が、最初に役員・管理職に対してジョブ型を適用しているのです。
一般社員へのジョブ型の適用は労働組合との交渉が必要であるなど、適用までに時間がかかります。そのため、まずは導入しやすく、効果も見えやすい部分から導入することでスピーディーなジョブ型移行を進める事ができます。
例えば、以下のような企業の事例があります。
・富士通株式会社:2020年4月に国内グループの幹部社員15,000名を対象にジョブ型人事制度の導入をしています。
・株式会社日立製作所:2014年に管理職に対して導入を実施し、2024年には完全なジョブ型への移行を表明しています。
・株式会社資生堂:2015年に一部管理職に対して導入を実施し、2020年1月から管理職全体を対象に、ジョブ型人事制度を適用しています。
各社とも管理職からジョブ型人事制度の導入を行い、その後一般社員へと適応範囲を広げる動きを取っています。
参考記事:ジョブ型雇用時代を「生き残れる人/敗れ去ってしまう人」の差
課題②異動・転勤ができないと人員補充が困難になり仕事が回らないのではないか。
早くからジョブ型を取り入れていた資生堂では、20以上の「ジョブファミリー(領域)」を作成し、ファミリーごとにジョブディスクリプションを作成。ひとつのファミリーの中で働くことを前提に採用、育成を行っています。
同社では、「チームの中で個の役割を担ってほしい」という考えのもと、ジョブの中の職務等級ごとに作成しています。
ジョブファミリーに、複数の職務がある場合も、同じ職務等級であれば、同じジョブディスクリプションを適用することが可能です。1つのジョブファミリー内で登用を行うことで専門性を高められる上、ジョブが細分化されすぎないので異動や担当替えも円滑に行え、チームワークも維持しやすくなるメリットがあるとのことです。
このように、メンバーシップ型雇用の中にジョブ型の仕組みを取り入れることで、メンバーシップ型の特徴である人員補充の容易さを担保しつつ、ひとつの領域内での登用や、職務の明確化によってジョブ型の特徴である専門性の向上を図っています。
参考記事:独自ジョブ型に移行。和洋折衷で専門性とチームワーク両立~資生堂
課題③幹部候補となるジェネラリストの育成が困難になってしまうのではないか。
日立製作所では、単純な成果主義ではなく、将来の伸びしろや成長を期待する人材の登用を積極的に行うことで、ジェネラリストの育成を図る取り組みを実施しています。
単純な結果だけでなく、そこに至るまでのプロセスやパフォーマンス、コンピテンシーも併せて評価することで、従業員が総合的な能力を身につけることを促すことができます。
また、サクセッションプランという、幹部人材の育成施策もジェネラリスト育成に有効です。これはりそな銀行、花王、帝人等の大手で導入されている手法で、ポジション、人材要件、育成計画を定義した上で、適任人材に対して育成施策を実施し、将来の幹部候補を育成します。
日立製作所のように評価や登用の面でジェネラリストを育成したり、サクセッションプランなど人材育成の一貫として計画的にジェネラリストを育成するという2軸が主な解決策になります。
参考記事:対談 「ジョブ型雇用」とこれからの人財マネジメント その4 ウェルチの手紙
課題④スピード感を持って移行を進めるにはどうすればよいか。
富士通ではジョブ型の導入をアジャイル型(※)で進めることで、スピード感を持った移行に成功しています。
※開発手法のひとつとして親しまれているアジャイル開発では、短い「計画と振り返り」のサイクルを繰り返し実行します。これによって状況に応じて柔軟に優先順位を変えることが可能になり、リスクを最小化しながらスピーディに問題解決を行うことができるという考え方です。
同社では、「職責ベースの報酬体系の導入」、「ポスティングの拡大」、「教育・研修体系」をジョブディスクリプションの作成や雇用制度に先んじて実行しています。ハード面のすべてを完璧に整えてから導入を行うのではなく、改革のスピード感を重視して実行することも大切です。細則やガイドライン等は徐々に整えていくやり方が変化の早い時代には適しています。
また、変化の早い現代では、緻密なジョブ・ディスクリプションを作成しても、すぐに見直しになり、結果として運用が機能しなくなる恐れがあります。また、膨大な数のジョブ・ディスクリプションを短いスパンで作り変えていくことは現実的に困難であることに加えて、記載されていない仕事が放置されてしまうかもしれないという恐れもあります。
同社では、それらの危惧を踏まえ、緻密なジョブ・ディスクリプションなしでジョブ型組織を運営しています。同社の運営方法は、「ロールのレベル」と「職責のレベル」で縦横を構成する、富士通独自の「ロールプロファイル」を作成し、これを共通データとして1人ひとりのジョブ・ディスクリプションを制作していくのだといいます。
参考記事:【レポート】企業変革実践シリーズ 第6回:「富士通のジョブ型を中心とした人事制度のフルモデルチェンジ」
課題⑤ジョブ・ディスクリプションを作成しても、それがしっかりと実行されるのか分からない。
ジョブ・ディスクリプションが放置されない為には、ジョブに紐付く「目標の設定」、「目標の実行」、1on1やフィードバックによる「振り返り・行動修正」というマネジメントのイベントを回していくことが重要になります。
アウトドア関連のwebサービス「hinata」やキャンプ用品のレンタルサービス「hinataレンタル」などを展開しているvivit社ではこのマネジメントのイベントを見直すことで、メンバーのパフォーマンスを大きく高めることに成功しました。
vivit社では自身のジョブや役割を踏まえた上で、誰が見ても明確な目標を立てられるようにマネージャーとメンバー間で目標のすり合わせを行うことで各自のやるべきことを明確にしています。
その後、設定した目標を実行していく中で周囲からフィードバックを受けたり、1on1による振り返りや行動修正を行っています。これらのマネジメントのイベントを実行していくことで、各自のジョブが放置されないだけでなく、取り組み前と比べて「S評価(120%達成)」のメンバーが29%→56%まで増えたそうです。
参考記事:「S評価」が29%→56%に!「目標達成するチームづくり」に成功したvivitの取り組みとは?
人や風土に関するソフト面の改革はハード面の改革より始めやすい、というメリットがありますが一方でこれらの変化は定着が難しいという側面があります。例えば、一度変更したら適用される人事制度とは異なり、「目標への意識を高める」という改革を成功させるためには、自社の中で文化や習慣となるまで繰り返し施策を実行していく必要があります。
こうした「定着が難しいソフト面の改革」を成功させるための手段として、ITツールの活用があります。マネジメントツール「Wistant」ではジョブを着実に実行させるマネジメントの定着と標準化に役立つ機能が豊富に用意されています。
Wistantでは目標を高頻度に意識する仕組みとして、定期的に目標の進捗度合いをメンバー1人ひとりに問いかける「目標ヘルスチェック」という機能があります。
このヘルスチェックは、ナッジ理論(※)の考え方を取り入れています。「本人の行動が無意識に成果に結びつくような環境」を整えることで、ジョブディスクリプションがお飾りにならずにジョブが実行されていくことにつながります。
※ナッジ理論について、詳しくはこちらをご覧ください:【ノーベル賞を受賞】「ナッジ理論」を用いて「自発的に」人のパフォーマンスを上げる方法とは?
Wistantでは、高頻度の振り返りや行動修正を促す場となる1on1やフィードバックについての機能が充実しています。
1on1では事前アンケートの設定やその実施率や対話の質を測定することができ、フィードバック機能では企業ごとに自由な形式でフィードバックを作成、運用することができます。
これらの機能をもとに、マネージャーはメンバーの目標達成に向けて必要なピープルマネジメントをストレスなく実行していくことが可能です。
ダッシュボード機能では、マネジメントの実施状況を定量的に可視化することで、経営層や人事によるマネジメント状態の分析・改善を可能にします。
目標が更新されていない、1on1が実施されていない、など組織によって異なる様々なマネジメントの歪みを解消していくことで、ジョブディスクリプションに紐づく目標達成を支援することに繋がります。
このように日常的な使用を想定した機能が充実しているため、メンバーが自身のジョブを日頃から意識できる環境を整えることができます。
Wistantを活用して、ジョブに紐づく目標の実行と、その振り返りや行動修正が高頻度に行われる環境を構築し、ジョブ型組織への移行をはじめませんか?