管理職研修のプロに聞く(前編)なぜ管理職はコミュニケーションを避けるのか――弱音を吐けない「管理職の鎧」が生む現場のジレンマ
ピープルマネジメント 1on1 HRトレンド 研修 社外メンター
2025. 02. 06

管理職研修のプロに聞く(前編)なぜ管理職はコミュニケーションを避けるのか――弱音を吐けない「管理職の鎧」が生む現場のジレンマ

「管理職の罰ゲーム化」とも言われる時代が到来したいま、管理職の成り手不足は日本企業の重要な課題となっている。現代の管理職に必要な支援や、上司部下のコミュニケーションはどう変わっていくべきだろうか。

そこで、日経ビジネス「課長塾」の講師と、そのプログラム開発に携わり、20年にわたり5,000人以上の管理職へコミュニケーション研修を提供してきた 中川 紀篤 氏に、管理職に必要なコミュニケーションスキルや、管理職支援の重要性について伺った。

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中川 紀篤 氏〈プロフィール〉

洋酒メーカー、産業見本市主催会社を経て、日経BP社に入社。展示会事業部を立ち上げた後、販売部に異動し、パソコン誌のダイレクトマーケティングを担当。ベンチャー企業を経て独立。日経ビジネス「課長塾」の講師及びプログラム開発に携わり、これまで20年にわたり5000人以上の管理職に対してコミュニケーション研修を実施している。現在は仕事と並行して、心理系大学院にて臨床心理学を専攻中。

 

■主な研修内容

1on1コミュニケーション、部下の問題解決促進、アクションラーニング、セルフコンパッション、インバスケット演習、脱“コンフォートゾーン”

 

■資格

米国NLP協会認定マスタープラクティショナー、L.E.T.認定トレーナー、JIAL認定アクションラーニングコーチ、Immunity To Change®認定ファシリテーター、インバスケット研究所認定トレーナー

 

 

ーー「管理職の罰ゲーム化」と言われる現代において、管理職は社内コミュニケーションについてどのような難しさを抱えているのでしょうか?

 

中川:まず、日本企業の管理職に共通して言えるのは「管理職になると自分の悩みを社内には相談しなくなる、できなくなる」ということです。これまでたくさんの管理職にコミュニケーション研修を提供してきた中で、多くの受講者に共通している現象です。

 

管理職が上司(たとえば部長や役員、執行役員など)に相談を持ちかけるのは、具体的な意思決定を仰ぐ必要がある場合に限られます。自分が管理職としてうまくいっていないとか、悩みがあることを上司に相談できるのは、よほど関係性ができている場合のみです。能力が低いとか意欲がないなどと評価されてしまうのではないか?そう感じて、管理職は社内の誰かを信頼して、話す、相談する、ということができない状況です。

 

ましてや自分の内面的な心の弱さとか、プライベートな悩みなどは極力言わない。「弱音の吐き方がわからない」という感覚に近いと感じます。僕たちの世代は「弱音なんて吐くもんじゃない」と言われて育ってきているし、弱音を言わない上司が強い、という時代で育ってきています。弱音は、自分の中に全部押し込めることが当たり前なのです。その押し込めているものを、時々お酒の席で吐き出していたものです。今ではそのお酒の席もなくなってきていますよね。現代の管理職は「うまくいかないよね」の弱音を吐き出す場所がどこにもありません。

 

管理職向けの研修の場であったとしても、自分の弱音を言える人は本当に一握りです。例えば、管理職がいま自分が抱えている問題を解決する、というテーマの研修を実施した時に、「部下の育成ができていなかった」「部下の気持ちを考えられていなかった」「任せることをやっていなかった」などと、状況や状態の話をする。自分の意思や感情はなかなか表現されません。感情を無視して、表面的な取り繕いをしている人が非常に多いのです。

 

部下の育成を「うまくできないことに焦る」のか、「そもそも育成したくない」のか。思考でなく自分の感情はどうなのか?と講師が介入することで、やっと、「正直言いますと…、実は部下の育成を面倒だと感じていました」と伝えてくれるようになります。この弱音を吐き出して自分の感情と向き合う作業がなければ、いつまでも表面的な取り繕いが続きます。社内のコミュニケーションも、管理職が自分の感情に向き合う機会がない限り、変化は起きづらいでしょう。



ーー管理職になると、なぜ弱音を伝えることが困難になるのでしょうか?

 

中川:感情を表現することに慣れていないこともあると思いますが、管理職は「分厚い鎧」を知らず知らずに着ているのです。20代後半くらいから着ている鎧の厚みが増してきて、管理職になる頃には沢山の鎖がついたような重い鎧いなっている。自分が鎧を着ていることにも気が付いていませんし、脱ぎ方も知らない。鎧を着ているまま「これが本来の自分」と思っています。

 

私はそういう方に対して「本当にそうですか?」と問いを投げかけます。この問いをきっかけに、卵の殻が少しずつ割れていくように、本当に少しずつですが、鎧が脱げていくのです。そうすることで「正直にいいますと…」と、やっと感情が言えるようになる。無意識に着ている鎧を脱ぐことは、そう簡単なことではありません。

 

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(右)中川 紀篤 氏 (左)株式会社フルート 菊池 沙津季

 

 

ーー先ほど、管理職は自身の上司には弱音を言えない、と伺いました。別の方法で鎧を脱ぎ、弱みを表現する方法はあるのでしょうか?

 

中川:例えば、一番身近な存在である自分の部下に、まず、自分の弱音を伝えてみるのも良い手段です。「実はこのお客さん、自分も苦手意識があって…」とか「自分としては行き詰まっているのでみんなの力を借りたい」と、上司が本音を言ってみる。そうすると、部下は「自分を信頼して打ち明けてくれたんだな」と感じて、嬉しくなるものです。

 

ずっと鎧を着て「仕事のできる管理職」を演じてきた人からすると、自分の部下に弱音を打ち明けるなんて、最初は違和感があるでしょう。相当の覚悟がいる行動だと思います。これまで自分が歩んできたキャリアやステータス、演じてきたキャラクターを壊すことになるからこそ、恥ずかしさも伴う。

 

心理学的な表現でいうと「自己愛性」、つまり、仕事のできる管理職として見られたい、評価されたい欲が高い管理職ほど、鎧を脱いで、これまでのキャラクターを壊すことは簡単ではありません。長年積み重ねた経験から身につけた理想の自己像を、自分で否定する作業になるわけですから、それは覚悟のいる作業です。



ーーハラスメント予防など、管理職が社内でコミュニケーションを取る難易度が増していることはどう影響しているのでしょうか?

 

中川:ハラスメントに関する情報のインプットにより、「ハラスメントだと言われたくない」と感じる管理職は、部下とコミュニケーションを取りづらくなります。部下との心理的な距離が離れます。コミュニケーションの量が減ると、上司部下の関係性が悪化し、ちょっと厳しく言っただけでも「ハラスメントだ」と言われてしまう、という悪循環が生まれています。

 

意識することが増加している影響で、管理職はますます思考優位になっていく。「ねばならない」「べき」の思考にとらわれて、自分の本当の気持ちや感覚ではないところでコミュニケーションを取ってしまっているように感じます。

 

現代は何もかもがデジタルで、表面的な情報が多いじゃないですか。でも人間は良くも悪くも感情や感覚で生きているからこそ、腹も立つし、泣きもするし、笑いもする。こういった人間本来の感覚でコミュニケーションを取りたいけれど、現代に生きる私たちは思考に縛られている。本当は「つらい」「怖い」という弱音を吐きたい、でも言わない。これが現代の会社に蔓延していると感じますし、管理職は特に「ぶっちゃけて」を言える場がほとんどないのが現状です。

 

1on1を通じて上司部下の関係性構築に取り組む企業が多いなかで、上司側は本音を話す体験をしていない、本音を話す感覚を知りません。管理職が「本音を聞いてもらう」という体験をしていないのです。今の管理職の人たちが育ってきた時代とは違うパラダイムである今だからこそ、管理職自身が弱音をこぼしてみたり、「本音を聞いてもらう」ことを体験することが大切でしょう。

 

 

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▼ 管理職研修のプロに聞く(後編)
「管理職の心に余白はあるか?」本音を聴かれる体験が組織の対話文化を育む
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