「管理職の罰ゲーム化」とも言われる時代が到来したいま、管理職の成り手不足は日本企業の重要な課題となっている。現代の管理職に必要な支援や、上司部下のコミュニケーションはどう変わっていくべきだろうか。
そこで、日経ビジネス「課長塾」の講師と、そのプログラム開発に携わり、20年にわたり5,000人以上の管理職へコミュニケーション研修を提供してきた 中川 紀篤 氏に、管理職に必要なコミュニケーションスキルや、管理職支援の重要性について伺った。(後編)
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中川 紀篤 氏〈プロフィール〉
洋酒メーカー、産業見本市主催会社を経て、日経BP社に入社。展示会事業部を立ち上げた後、販売部に異動し、パソコン誌のダイレクトマーケティングを担当。ベンチャー企業を経て独立。日経ビジネス「課長塾」の講師及びプログラム開発に携わり、これまで20年にわたり5000人以上の管理職に対してコミュニケーション研修を実施している。現在は仕事と並行して、心理系大学院にて臨床心理学を専攻中。
■主な研修内容
1on1コミュニケーション、部下の問題解決促進、アクションラーニング、セルフコンパッション、インバスケット演習、脱“コンフォートゾーン”
■資格
米国NLP協会認定マスタープラクティショナー、L.E.T.認定トレーナー、JIAL認定アクションラーニングコーチ、Immunity To Change®認定ファシリテーター、インバスケット研究所認定トレーナー
ーー管理職が「本音を聞いてもらう」体験をすることは、社内のコミュニケーションにどう影響するでしょうか?
中川:管理職が自分の鎧を脱げるような、本心に気づけるような、じっくり聴いてもらう体験をすることは、非常に重要です。「あ、そっか。こんなふうに聞いてもらうと、こんなに嬉しいのか」と気がつく。この嬉しい体験は「部下にもやってあげたい」という気持ちに変わります。例えば、自分が本当に美味しいと思ったお店は「誰かに教えてあげたい」と思う。でも美味しいことを知らなければ、教えたいとは思わない。それと同じで、部下とのコミュニケーションも「よい関わり方を知っている」「管理職自身が本音を言う体験をしている」ことが、関係性を深める最初の一歩になるのです。
もし、管理職が社内で相談しにくいのであれば、利害関係のない社外の人材をうまく活用すると良いでしょう。
1on1研修を1回受けたからといって、すぐ良い1on1ができるようになる、なんてことはありません。これまでの管理職研修で「部下に人として関心を持っているか?」と聞いて見ても、7割程度がNOです。多くの管理職が「部下とのコミュニケーションはめんどくさい」と感じています。
(右)中川 紀篤 氏 (左)株式会社フルート 菊池 沙津季
これまでの部下との関係性がそうであれば、なおさら1on1はうまく行きません。関係性がうまく行っていない上司部下の場合や、そもそも組織に対話の文化がない場合は特に難しいでしょう。いきなり上司が手のひらを返したように「話を聞くよ」と言っても、部下は疑いの眼差しを向けるばかりで一向に本音を話してくれません。管理職に限ったことではなく、組織においても、組織全体が覚悟を決めなければ対話の文化は生まれません。人事の方も苦心されていることでしょう。
関心のある管理職から、数名でもよいので、小さい規模の集団をつくって対話を始めてみる。聞いてもらう体験を通じて、まず管理職自身が自分のことを理解して、弱音を吐くことを経験する。その経験と熱意を小さな火種として、少しずつ大きな火にしていく。数年、十年以上かけて取り組む覚悟が必要です。
ーー「話を聞いてもらう体験」の他に、管理職のコミュニケーションに影響する要素はあるでしょうか?
中川:管理職の心の中に“あそび”が必要です。管理職の多くはプレイングマネージャーですが、自分の仕事に一杯一杯で、心の中に全く「余白」がない状態では人の話を聴く余裕はありません。いまにも溢れそうなバケツは、これ以上水を受け入れるスペースは全くありません。同様に、話しを聴く側の管理職は、心に悩みや不安、ストレスが溜まっていると、相手の話を受け止める余裕はありません。どこかで外に吐き出す必要があるでしょう。
ーー「聞いてもらう」という体験と、ストレス解消にはどのような違いがあるのでしょうか?
中川:例えば、運動や趣味、飲酒などでストレスを解消することはできます。しかし、それは一時的なスッキリ感であり、効果は持続しません。またすぐに戻ってしまいます。本質的にストレス状態を解放していく必要があります。
小骨が引っかかったような、なんとなく気になる悩みもあれば、慢性の腰痛のように、ずっと消えない悩みもある。管理職だからこそ、本質的な悩みや苦しさに向き合い、誰かに寄り添ってもらったり、受け止めてもらったりすることで、ストレス状態を軽減する必要があるのです。その体験によって心に余裕ができて初めて、「自分も聴こう」と言う気持ちになる。ストレスが溜まった状態で他人のストレスを受け止めることはできません。
ーー部下の話を聴くことになると、部下の不満の吐け口になったり、際限なく聞かなければいけないのでは、と不安を感じる方も多いようです。
中川:上司が際限なく聴かなければいけないか、というと、そんなことはありません。部下の話をちょっと聴いてみて、それが部下のガス抜きになれば、それでよいでしょう。ただ、それでは解消しないような深い問題や重い相談であれば、場所を変えて聴いてみる。時間がなければ「今週のどこかで時間を取ってしっかり聴かせて」と切り上げます。解決できるかできないか、ではなく、部下の話をどんな内容であれ、一度受け止めることが大事です。
心理学に「学習性無気力」という言葉があります。相談してもちゃんと話を聴いてくれない、否定されたり受け止めてもらえない。そうした経験が続くと「うちの管理職に言っても無駄だ」と部下が感じてしまい、本音や弱みどころか、必要最低限の情報しか話さなくなります。この状況が悪化すると「報告しない」「さぼる」「体調を悪くする」と部下のパフォーマンスを低下させます。だからこそ、管理職が「聴いてみる」ことや「聴いた内容は一旦受け止める」意識は重要です。部下に上手にガス抜きをさせる技術と言いましょうか。
管理職は心の余白がなければ聴けない、と言いました。そのためにも、管理職自身が自分の溢れそうなバケツの状態に気が付き、誰かに吐き出してみる。管理職自身がケアされる体験をすることは重要だと言えるでしょう。
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