「優秀なマネージャー」とは、どのような人のことを指すのでしょうか。
20年以上にわたって2,700万人および250万チームを対象とする調査を実施してきた米Gallup社では、最上の結果を出せるマネージャーの資質を持った人間は非常にわずかであり、その数はおよそ10人にひとりだと結論づけています。
一方、マネージャーが組織やチームに与える影響は、非常に大きなものです。Society for Human Resources Management の調査では、効果的なマネジメントは下記のようなインパクトを導くと言われています。
これだけ重要な役割を担うマネージャーの資質を持った人材が「10人にひとり」では、少々頼りなく感じるかもしれません。しかし、実際に大企業におけるマネージャーの割合は、およそ従業員10人につきひとりなのだそうです。
つまり、正しい資質を持った人をマネージャーに登用できれば、自ずとチームや組織を成功に導くことができます。
しかし実際のところ、企業はマネージャー候補の人材選定において8割以上は失敗しているという統計が出ているのです。
そこでこの記事では、優れたマネージャーの資質を理解した上で、社内に眠る適切な人材を見つけ出し、マネジメントを改善するために役立つ情報をお届けします。
※参考:Why Great Managers Are So Rare - Gallup
そもそも、優れたマネージャーの資質とは具体的に何でしょうか? Gallup社では、下記の5点を定義しています。
- 従業員1人ひとりの行動をモチベートし、企業のミッションやビジョンの実現に巻き込むことができる。
- 成果を導くために迷わず行動ができ、逆境や抵抗勢力を克服できる
- 責任を明確化するカルチャーを築ける
- 信頼、オープンな対話、完全な透明性を導く関係性を築ける
- 政治ではなく、生産性に基づいた意思決定ができる
この5要素は、マネージャー向けの10の行動規範を定義していることでも知られるGoogle社のブログでも参照されており、信憑性が高いと言えます。
いかがでしょうか? あなたの周りにいるマネージャーは、上記のような資質を持ち合わせていると言えますか?
このようなマネージャーを組織に増やすことができれば、従業員のエンゲージメントは2倍になり、それに伴って一株あたりの利益は147%に達するという調査結果も出ています。
※参考:How Employee Engagement Drives Growth
では、このような事実を踏まえた上で、組織のマネジメントをより良くするためには、具体的にどのようなことができるのでしょうか?
今回は、以下の3つの方法を紹介します。
- 1. マネージャーの「あるべき姿・行動」を具体的に定義する
2. マネジメントを「分権・分散」する
- 3. マネジメント層を支える「仕組み」をつくる
優れたマネージャーの資質はわかりましたが、実際に彼らはどのような行動をとるのでしょうか?
前述のGallup社では、「Manager of the Year」と呼ばれる全米から優秀なマネージャーを表彰するアワードを実施しています。そして、2019年のファイナリストにヒアリングを行ったところ、下記のような行動が挙げられたそうです。
- ・会社の目的と、個人・チームの行動をつなぐ
- ・他人の声に光をあて、そこに価値を見出す
- ・メンバーが何でも率直に言い合えるよう、チームのコーチとなる
- ・チームメンバー1人ひとりと、週に一度は意義のある対話を行う
・仕事とその人の生まれ持った志向を結びつけることで、人のモチベーションを解放する- ・素晴らしい成果を認識し、賞賛する
- ・従業員を「ひとりの人間」として気遣う
- ・新しいスター(エース人材)を見つけることを、最も重要な仕事としている
※参考:8 Behaviors of the World's Best Managers
上記のような助言を参考にしつつ、自社の組織文化やバリュー(価値観)を反映させ、マネージャーの「あるべき姿」や「行動指針」を定めてみてはいかがでしょうか。
例えば、直近4年で約2倍の規模に組織が拡大した株式会社エイチームでは、2019年に「エイチームマネジメントスタイル」の策定プロジェクトを実施しました。
その背景には、若手のマネージャーが増加した一方で、会社としてのマネジメントの基準が定義されず、個々人の判断基準でマネジメントが行われている…といった課題がありました。
そこで、目指すべきマネジメント基準を明文化し、全社への浸透を進めました。結果として、高い水準で人材を育成できるようになり、「望ましいマネジメントができているかどうか」を、誰もが客観的に判断できるようになったといいます。
※参考:「理想の人材育成」を明文化。組織にマネジメントスタイルを根付かせるプロセスとは
このように、自社にとって必要なマネージャー像を言語化することで、人材の登用基準も明確になり、会社としてのマネジメントレベルを引き上げることができるのです。
また最近では、「マネジメントの権限」を分散する企業も増えてきています。
そもそもマネジメントという言葉の由来は、「マネジメントの父」として知られるピーター・ファーディナンド・ドラッカーが、1973年に刊行した書籍「マネジメント」にあるとされています。
それによると、
マネジメントとは、組織に成果を上げさせるための道具、機能、機関である。
そしてマネージャーには、
- ・組織の目標を設定し、その達成のためのチームを作る
- ・チームのメンバーを評価・育成する
- ・上記を通じて、組織としての社会的な機能や責任を全うする
ということが求められる。
と、定義されています。
しかし、価値観が多様化し、変化のスピードが早い現代においては、上記のすべてをマネージャーに任せることは難しくなっているのも事実です。
例えば、2014年から本格的に「マネジメントの役割分散」をスタートさせたのが、株式会社ゆめみです。当時は、下記のような課題意識があったといいます。
※参考:全員の給与額を「自己申告」で決定!マネジメントの自動化を目指すゆめみの組織づくり簡単に言うと、リーダーの負担が非常に大きくなってしまうんですね。予算やプロセスの管理、ピープルマネジメントに加えて、非常にクリティカルなシステムを動かしていくプロジェクトマネジメント。
これらすべてを役割として担うことは、もう、どんなスーパーマンでも無理です。
そこで、ピープルマネジメントだけをやる人、プロジェクトマネジメントだけをやる人、といった形でマネジメントの分散を進めてきました。どんどん分権化して、2018年からはマネジメントの役割自体が存在しない組織へと進化しました。
同社は上記の通り、現在では、マネジメントの役割そのものをなくし、上下関係が全く存在しない組織を運営しています。このように、結果的にティール組織のような形態に移行していくケースもありますが、多くの企業にとってはまだまだ難しいのが現実です。
ですので、最初は「ワークマネジメントとピープルマネジメントの役割を分ける」といった取り組みが現実的には考えられると思います。
ピープルマネジメントの目的はコーチング、ティーチング、フィードバックによって個人の成功への伴走をすることです。もちろん経験やスキルは求められますが、ピープルマネージャーを組織に増やすことで、管理職の負担軽減や、組織状態の改善につながります。
最後に、マネジメント層を支える仕組みづくりです。マネジメント自体の難易度が高まり続ける中、ただマネージャーに任せるのではなく、会社としてのサポート基盤をしっかり整備することが求められています。
例えば、組織サーベイはその代表的な施策と言えます。年間300人ペースで社員が増え続けるLINE株式会社では、2017年5月より、高頻度のアンケートを通じて組織の状態を可視化する「従業員向けパルスサーベイ」と「人間関係の診断サーベイ」を導入。
両者をセットで運用することで、チームの変化を早期に認識し、その原因に対しての仮説や改善策を立てやすくすることを可能にしているそうです。
LINEはモノづくり中心の会社なので、以前は「クリエイティビティを阻害してはならない」という考え方が特に強くて。
組織マネジメントも、各部門の自主性に任せられている部分が大きかったです。
ですが、組織が大きくなれば、当然サポートは必要ですよね。どんなに優秀な人材でも、組織のマネジメント方法と相性が悪ければ、成果が出なくなってしまうこともあります。
(中略)そこで、2017年5月から、社員に月に一度、簡単なアンケートを実施することで組織の状態を可視化できる「パルスサーベイ」を導入しました。
※参考:急拡大する組織でも「チャレンジ」できる環境を。LINE社のマネジメントを支える仕組み
また、マネジメントの実行自体をサポートする「マネジメントツール」の導入もおすすめです。弊社が運営する「Wistant」を導入されている企業様では、以下のような声を頂戴しています。
・Wistantでマネジメントに一定の型が提供されることで、コミュニケーションの質が高まった
・ミドルマネージャーを立てられるようになり、組織としてのマネジメント体制が強化された
・目標の更新頻度が圧倒的に増え、パフォーマンスを上げるための行動の修正ができるようになった
詳しくは、ピープルマネジメントの実践事例集(無料)を下記からダウンロードできますので、ご覧ください。
昨今の新型ウイルス拡大による「働き方」の変化により、マネージャーの負担はますます増大しています。
しかし一方で、マネージャーは現場と経営陣をつなぐ会社の血脈であり、組織をより良くしていく上ではカギとなる存在です。会社として、マネジメントを組織課題と捉え、改善の手を打ち続けていくことが今後も重要になるでしょう。