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組織における「対話」の再生(後編) 対話の「見える化」で目指すコモンセンス形成――学びで繋がる「社縁2.0」への展望

作成者: Wistant mentor|2025. 03. 07

前編では、なぜいま組織で「対話」が失われつつあるのか、その背景にある社会的な構造と、対話ニーズの喪失が与える組織への影響について伺った。多くの企業が直面する「対話の危機」に対して、私たちはどのように向き合っていけば良いのだろうか。

後編では、引き続き小林氏に、人事が取り組める対話再生への具体的なアプローチと、組織の中に新たな縁を組み込む、「社縁2.0」という組織的つながりの可能性についてお話しいただいた。

 

【お話を伺った方】

▶︎▶︎記事の前編はこちらから

組織における「対話」の再生(前編)
なぜ「本音で話せない職場」が増えているのか――対話を再構築する“コモンセンス”の重要性ーー

https://blog.wistant.com/library/0306

 

 

 

ーー前編では、対話を支える「コモンセンス」の重要性について伺いました。対話ニーズが失われつつある組織において、対話のきっかけとなるコモンセンスを形成するには、何から取り組めば良いのでしょうか?

 

小林:前回お伝えした通り、対話のトレンドと現場の対話ニーズが乖離している、ジレンマのある状況において、対話を再構築することは一筋縄では行きません。対話のきっかけとなる組織中での共通知識(知っていることを知っている状態)、つまり「組織内コモンセンス」が生まれるような、具体的な「仕掛け」を組織のなかに作る必要があります。

 

その核となるのが、コミュニケーションの「見える化」です。話題をなるべくオープンに共有し、さらに「この情報がどこまでオープンになっていて、誰が知っているのか」まで見える化します。あらゆる手段を活用して「コミュニケーションを見せていく」ことが重要です。

 

例えば、ハラスメント研修を導入する場合も、通常であれば上司が受けるのみ、でしょう。そうではなく、部下にも上司が何を学んだのかを共有し、上司にも部下が知っていることを共有する。最も手っ取り早いのは、私も実践していますが、上司と部下に同じ研修を受けてもらうことです。この「ハラスメントについて上司が学んでいて、それを部下も知っている」という状態が作られる、つまりコモンセンスがある状態になれば、組織内のコミュニケーションはおのずと変化します。

 

コモンセンスのポイントは「知っていることを、知っている」状態にすること。ただ単に同じ情報を伝えること、ではありません。この区別は大変重要です。地域の回覧板はわかりやすい例で、各世帯が押印していくことで、情報がどこまで共有されているかが一目で把握できますよね。だから回覧板に印鑑が押してある人には、「あの回覧板に書いてあったけど…」と話題を振りやすい。この、情報をどこまで共有させるのか、その共有をどう周知するか、までを計画していくことが人事には必要です。

 

 

ーーコミュニケーションをいかに見せていくのか、まで人事設計に組み込む必要があるのですね。

 

小林:そうです。ここまで丁寧に設計していくスキルが、現代の人事に求められていると感じます。

では、どのようにコミュニケーションを可視化するのか。企業内でできることとして、組織におけるコミュニケーションを「4つの方向」に分けた上で、可視化する仕組みをご紹介します。誰と誰のコミュニケーションを可視化して、共通知識であるコモンセンスを作っていけるか、という視点です。

 

出典:パーソル総合研究所

 

小林:まず1つ目は、「ヨコ」からの視点での可視化です。管理職などの役職同士や、新入社員同士でのコミュニケーションやオープンな情報を増やすことで、「同じ世代の人が何を考えているのかわからない」という状態を解消します。横のつながりを生むには、通常の形式的な定例会議では不十分です。よりカジュアルな対話の場を設けることで、お互いの考えや状況への理解を深め、組織としてのコモンセンスを形成しやすくなります。

 

2つ目は、「シタ」からの視点での可視化、つまり、上層部に関するコミュニケーションをオープンにすることです。例えば、経営会議の議事録を社内で広く公開することで、単に「どのような議論が行われているか」という情報だけではなく、「この情報が組織全体で共有されている」というコモンセンスも同時に形成されます。働く社員にとっても「会社の上層部がこう言っていたけど…」と、同僚と話すきっかけとして活用しやすいですし、大いに対話の架け橋になります。

 

3つ目は、「ナナメ」のからの視点での可視化です。「ナナメ」というのは、上司部下「以外」の関係性を指します。例えば、通常は上司部下のみで行われる1on1を、1on2や2on2といった形に発展させる。「対話の内容を共有する人物を、上司だけでなくもう一人増やす」ことで、より多角的な対話が可能になるだけでなく、情報を共有している範囲が広がる。これだけでもコモンセンスの形成には効果を発揮します。

 

出典:パーソル総合研究所

 

小林:最後は、「ソト」からの視点での可視化、つまり組織外の関係性における可視化であり、ソトからナカを見ることで「うちの組織」という共通知識を作る、という視点です。自分の組織のことは、中にいるだけでは気づかないものです。ソトを知り、自分の組織との違いを認識し、「外の人がどう自組織を見ているか」を知るることで、はじめて「うちの組織って、こうだよな」というコモンセンスが刷新される。

 

新人や中途社員、異動者にとっての「オープン・オンボーディング」の推進ともいえるでしょう。通常のオンボーディングでは、社員の育成は配属された部署、課、チームなどの小さな範囲に閉じがちです。しかし、あえて他の部署の人や、もっと広げると組織外の人との接点を作ることで、自分たちの仕事の意義や組織の特色がより鮮明に見えるようになります。

 

これらの「4つの方向」を意識しながら、コモンセンスが生まれるよう、人事施策の全体像を設計していくことが重要です。忘れてはいけないのは、「誰がその情報を知っているのか」までをオープンにすることです。

 

 

ーー「コミュニケーションの見える化」に加えて、社内の「対話推進派」と「対話懐疑派」の溝を埋めるために、人事が工夫できることはあるでしょうか?

 

小林:組織でカジュアルな対話の機会をデザインすることが重要です。しかし、「対話をしましょう」といっても、結局は対話に対してポジティブな人しか集まらない、決まった人でしか盛り上がらない、ということもあるでしょう。自発性が大事な対話を、他者から強制してしまうと、カジュアルな場ですら形骸化する可能性があります。そこで皆さんにお伝えしたい2つの重要なポイントがあります。

 

まず1つは、コミュニケーションを「弱い目的」にするということです。現状、形式的な付き合いを好む人が多い中で「対話しましょう!」と直接的に呼びかけても、むしろ反発を招きかねません。それはコミュニケーションが得意な「陽キャ」的発想か、押し付ければなんでもできると考える「管理」発想です。

 

では、何を目的として前に立てるべきかというと、一つのヒントは「学び」です。ただ同じ組織で働く者同士である「社縁」だけではなく、共通の目的による「学びの縁」をつくる、つまり学びを通じた社縁、「社縁2.0」ともいえる者には期待しています。

 

例えば、生成AI勉強会をオンラインで開催し、節目となる回でリアルな場での実施を組み入れ、終了後に飲み会を仕掛ける。あるいは、新規事業のアイデア募集を行い、同じような提案をした人同士のネットワークの機会を設ける。すると、単なる懇親会では集まらなかったような人が多く参加するはずです。ある目的について学びたい、という共通の目的を持った人たちですから、全員と仲良くなれなかったとしても、少なくとも数名とは絆を深めることができやすい。学びの場であれば、必ずしも発言は求められず対話が強制されているわけでもないので、コミュニケーションに苦手意識がある人でも参加しやすくなります。

 

 

ーー「学び」が目的であれば、対話への抵抗を感じず、ヨコやナナメ、ソトの方向でコモンセンスを共有する繋がりを作りやすいと感じます。2つ目のポイントはなんでしょうか?

 

小林:2つ目は、「偶然性」や「宿命性」を取り入れることです。「自分で選んだ相手とのコミュニケーション」ではなく、「偶然その場に居合わせた相手とのコミュニケーション」が生まれる場をデザインする、ということです。現代では、エンタメや遊びにしても、マッチングアプリにしても、「自分で選ぶことが正義」のような空気感を強く感じます。その一方で、「決まった人としか話さない」「仕事で関わる人と、最低限の話しかしたくない」と、形式的な付き合いを望む傾向が強まっているように、組織でのコミュニケーションまで選択的にしてしまっては、かえって関係性が脆弱になってしまう。さらには、私たちは「関係性まで選択すること」に対して、どこか疲弊している面もあるはずです。

 

そうした脆弱性や疲弊が存在しない、特殊な関係性があります。いわゆる「腐れ縁」のようなものです。

例えば、兄弟関係がそうです。趣味も価値観も合わず、よく喧嘩する仲だとしても「兄弟だから仕方ない」と思える。自ら選択していない、偶然に生じた縁だからこそ、続いていく。職場でいえば、「同期」という関係性はこれに近いものです。自分では選んでいない仲間だけれど、なんだかんだずっと仲が良くて、退職後も集まり続けるケースも少なくありません。「学びの縁」にも、これと同様に偶発的な出会いによる腐れ縁が生まれるチャンスがあり、決して強要されない対話が生まれるのです。

 

 

ーー学びの縁や、腐れ縁を含んだ社縁へのアップデートが「社縁2.0」なのですね。

 

小林:要するに、「対話すること」ではなく、あえて「学び」を中心に据える。こうすることで、個人では選択しえなかった仲間に出会い、共に学び、成長し合える関係性を通じて「腐れ縁」のような強いつながりを紡いでいくことができる。もちろん、きっかけは学び以外にも考えられますが、もっとも有力なものだと考えています。

 

地縁・血縁といった社会関係資本を失ってきた日本人にとって、新たな社会関係資本を構築していくためには、こうした「腐れ縁」的な要素を取り入れていくしかないと私は考えています。いわば、「日本総腐れ縁化」です。日本企業において、こうした「学縁」「腐れ縁」を人事が作ることができれば、失われつつある「社縁」を再構築できると考えています。

 

さらに重要なのは、こうした機会を「同時多発的」に仕掛けていくことです。例えば、10人が集まる場で、実際に深いつながりが生まれるのは2〜3人程度かもしれません。しかし、それで十分なんです。一度の研修や集まりで強い繋がりができる、と思わずに、複数の場を同時多発的に、小さく仕掛けていく方がよいのです。

小さなコミュニティが泡のように生まれては消えていく、そのような状態を意図的に作り出すことで、組織内の接点が自然と増えていきます。現代の企業において、一枚岩の大きなコミュニティを作ろうとすることは現実的ではありません。

 

 

ーー確かに、人事の方からも「研修やイベントの参加率が悪い」といった声が聞かれます。大規模で強制参加のコミュニティだけではなく、参加しやすい小さなコミュニティが求められているのかもしれません。

 

小林:「人見知りが多い」「参加率が低い」という企業でも、お互いのことを徐々に知っていくことで、関心は後付けで生まれてきます。さらに面白いのは、人は、「みんなも知っているだろう」と感じられることに、興味を持つ傾向がある、ということです。どんなにくだらない話題でも、ワイドショーで扱われるうちに興味を持ち始めるのは、報道が続けばどんなネタでも「皆が知っているだろう」という予期が作用する、「コモンセンス」になるからです。人は「他者の関心」に関心を持つからです。

 

要するに、「対話」へのニーズが失われつつあるというのは表面的な話で、コモンセンスとコミュニケーション機会さえ与えられれば楽しめる感受性はあると思っています。むしろ、コモンセンスが貴重になっている現代だからこそ、「分かち合えた」という時の感動も大きくなっているのではないかと思いますし、心の奥底では皆、「対話」を求めているのかもしれません。大手企業の不祥事や大谷翔平のことを話題にしたがるのは、コモンセンスへ飢餓感の反動に見えます。

 

 

ーー自覚する「ニーズ」としてはなくなっているものの、本当は、人は対話できる機会を心の奥底で求めているのですね。

 

小林:そうですね。話をまとめると、組織における対話の再生には、「学び」を軸としたアプローチが有効である可能性が高い。それは単なる知識の習得の場ではなく、コモンセンスを形成する場となるからです。

 

こうした取り組みを通じて目指すべきなのが「社縁2.0」、すなわち学びを媒介とした新たな組織的つながりです。共に学び、成長し合える関係性の中で「腐れ縁」のような強固な絆が紡がれていく。そこでお互いを知り、コモンセンスが形成され、対話が促進されていく。こうした新たな組織づくりへの挑戦が、これからの企業に求められるのではないかと思います。

 

 

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組織における「対話」の再生(前編)
なぜ「本音で話せない職場」が増えているのか――対話を再構築する“コモンセンス”の重要性ーー

https://blog.wistant.com/library/0306

 

 

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